『図説 日本戦陣作法事典』(笹間良彦・柏書房)の感想
書籍『図説 日本戦陣作法事典』(笹間良彦・柏書房)の感想を申します。ネタバレが含まれていますので、ご注意ください。
これは、時代小説の構想や設定を練ったり、戦国時代の背景を考えたりするのに、非常に役立つ資料です。
説明文はもちろん作者様でしょうが、詳細なイラストも、そうなのでしょうね。
巻末の合戦用語集(文字ばかり)と八章の軍装(イラストメインで説明少々)を除けば、見開き右ページに説明、左ページが図画と、見やすく、目的の項目を探しやすい、親切構造です。
だだ、例によっていただけない点を挙げましょう。
合戦用語集ですが、三段組の細かい字で、使用例として現代語訳でなく、原文を取り上げられていますので、読み辛くて、退屈でした。よく読むと、なかなかおもしろい内容が多かったのですが、これは私の日頃の不勉強ゆえでもあります。
もう一つ、第二章の着到。奈良時代、源平時代、小田原北条氏までは、すんなりと、興味深く読めます。けれども、「江戸幕府規定の着到「となりますと、二百石、三百石……三万石、四万石、五万石と、読んでいるというより、読む修行を強いられているような……。スケールが大きいこと、必ずしも石高の多さによって人馬や装備も増えていくものではないのは、充分にわかったから! と、私は心の中で叫んでしまいましたよ。
しかし、難点はこのくらいで、この本は古代から続く、戦い、武士の戦を知る上で、大変参考になると思います。
メインは源平時代以降の武士の戦の様子を描かれていますが、私はせいぜい、主将、重臣、足軽といった構成しか、思い描いておりましでした。
ところが、雑兵といっても、足軽ばかりでなく、忍者(しのびのもの)と、かまり(一文字漢字なのですが、出てこないので、ひらがなです)は、似て異なるものであること、忍者やかまりは、今でいうと、フリーエージェントような存在であったことなど、まさに驚かされました。
他にも、責任者の武士を奉行といい、船奉行、幕奉行、旗奉行、兵糧奉行など、多岐にわたっていること、馬は替えの馬も引き連れなければならず、飼料も膨大に必要で世話係も必要なことなど、目から鱗が落ちっぱなしでした。
さらには、陣中に必需品を売りにいく人々、遊女などのしたたかな面々から、戦に巻きこまれて山奥へ避難したり、略奪や人取りの被害にあったり。そうかと思えば、逆に庶民が、落武者狩を行なって、身ぐるみ奪い取り、殺しさえしたという凄惨さにも驚かされてしまいます。
私としては、以前に読んだ『雑兵めし物語』とエピソードが重なるのですが、松の皮さえも食料だったというお話や、現代の常識的に考えて、あり得ない! 戦傷の手当が、特に印象に残りました。
しかし、最大のインパクトは、手柄の証拠としての、首級の扱いです。兜を被る士分は兜首として賞揚されますが、逃げる敵の首(追首)、雑兵の首(数首)は手柄にならないので捨てていく。れっきとした人間だったものが、ゴミ同然にされるのですから(首供養をすることも)、このあたりの図画はなかなか残酷です。
加えて、得られた首にも、何という者なのか確認するための首実検を行なうのですが、これまた首の持ち方、主将以下の儀礼と、細かい作法が続きます。首の吉相、不吉まであるとか。私って本当に、何も知らずに戦国時代の漫画や小説を読んでおりました! 反省。
そのようなわけで、リアルな日本史の戦模様を詳細に知りたい方にお勧めいたします。それでは。
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