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2023年2月19日 (日)

『犯されて』(アタウラー・マルダーン 広瀬順弘/訳 富士見ロマン文庫)の感想

 それでは、富士見ロマン文庫No.20『犯されて』(アタウラー・マルダーン 広瀬順弘/訳)の感想を申します。ネタバレが含まれていますので、ご注意ください。

 刺激的なタイトルですが、原題は『Kama Houri』、あとがきの翻訳者様による説明では、「愛欲の処女神」という意味だそうです。
 残念ながら、原作者については、くわしく述べておられませんが、私はなかなか、前のめりになって読めました。
 主人公はアン・ペンバートンという、1888年8月に享年18歳だった少女で(冒頭は彼女の墓碑銘で始まります)、当時の支配者だったイギリス大佐の長女。舞台は、インド北部のアボタバドからアフガニスタンのカブールにかけて。
 あらすじを申しますと、ある日、アンは窓外で、たくましいアフガニスタン人兵士が上半身を鞭打たれるのを目撃し、異様に興奮してしまいます。彼こそは、ヤクーブ・カーンで、アンの心や人生を大きく揺さぶることになった男性でした。
 まもなく、ヤクーブはアンの馬丁となりますが、乗馬していて障害を越えられなかったアンの失敗に乗じて、乱暴に「犯して」しまいます。アンは屈辱を感じる以上に、ヤクーブのたくましい体、性技に強いインパクトを受けます。同じイギリス人のロビン・マクラウドに求婚されながらも、
人目を避けて逢瀬を続けずにはいられないほどでした。
 しかし、ヤクーブは、どこかへ立ち去ります。懸命に捜すアンを、ロビンが追いすがって来るのですが、理由を知って逆上する彼を、アンは抵抗して殺害してしまいます。ヤクーブは何と、幼い少女と結婚していたのでした。アンとの同居生活も長くないうちに、ロビン殺しの犯人を追っているとのうわさを聞いて、ヤクーブはアンの髪を短く切らせて、兄弟のダウラートと一緒に、逃走していきます。男装したアンは、グーラムという名を名乗り、ヤクーブとダウラートの男色行為を見せつけられたり、ダウラートの愛撫を受けたりしながら、旅を続けます。
 ヤクーブのアンに対する扱いは、だんだんひどくなり、恩人の老族長に彼女を与え、最終的な目的地のカブールでは、売春宿に売り飛ばして行方をくらませてしまいます。
 しかし、アンはイギリス人アーサーから救い出され、ヤクーブは拘束されて、処刑されます。イギリス本国での穏やかな生活を夢見るアンでしたが、帰国目前にして、復讐の魔の手が伸びてきたのでした(冒頭へ続きます)。
 

 

 いただけない点については、ずっとアンの視点で描かれている割には、彼女の気持ちに矛盾が多い、ということです。クズ男のヤクーブの正体がばれるまで、彼女は彼を愛してるはずなのに、幼な妻と同居したり、ダウラートや老族長を受け入れたりと、言いなりになってばかりいるのは、なぜなのでしょう? 官能シーンをつなぐための方便ですかね? 最終的に、ヤクーブがいなくなって、アンは当たり前のイギリス少女になってしまったのは、恋の熱病から覚めてしまったゆえでしょうか? ちょっと、ヤクーブが哀れです。
 でも、不満な部分は、そのくらいですね。イスラム圏の生活習慣や価値観の記述が多く、私は楽しめました。逆に、やっている場面ばかりが読みたい方には物足りないかもしれません。
 他にも、たくましくて純粋だと感じられていたヤクーブのクズぶりに呆れましたが、脆弱そうなロビンの、暴力的な豹変には一番驚かされました。逆切れにも、ほどがあるって感じです。
 結局、作中で一番ましだったのは、アンを助けるアーサーだけでした。けれども、彼とアンは恋仲にはなりません。
 どちらかというと、勢いとパワーに任せたエロシーン(会話や雰囲気で盛り上がるようなことはなし!)てんこ盛りですが、これは官能小説であると同時に、フェミニズム的なニュアンスも含まれていると思います。男性に頼り、尽くしてばかりいることが、いいことではなく、ひどい目にあうぞって、ことですね。
 おもしろかったです。お勧めいたします。それでは。

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