『マタ・ハリの日記』(マーク・アレクサンダー編/秦新二 訳・富士見ロマン文庫)の感想
『マタ・ハリの日記』(マーク・アレクサンダー編/秦新二 訳・富士見ロマン文庫 No.16)の感想を申します。ネタバレが含まれていますので、ご注意ください。
マタ・ハリは実在した、大物の女性スパイですが、その日記というわけです。果たして、これは官能小説か、ノンフィクションではないかと、ツッコミを入れたくなりますね。
ところが、序文のマーク・アレクサンダー自身が、ネタばらしをしてくださっており、開いた口がふさがりませぬ。
これはマタ・ハリによる、日記という形の小説なのか、それとも、ただの妄想の書き流しなのでしょうか。
どちらにせよ、私が今までに読んだ富士見ロマン文庫作品の中で、もっともおもしろくて魅力的な作品です。
その理由は、エロのてんこ盛りであること、次に、マタ・ハリの栄光から無残な転落までのジェットコースター人生、彼女と様々な男性達との会話が当意即妙で、おかしささえも感じること、最後にここまで多くの魅力を持ちながら、雑然としておらず、一気に読ませてしまうパワーと展開があることです。
あらすじとしては、マタ・ハリの経歴やその生涯については、非常に有名なので、省略いたします。日記の表現によりますと、マタ・ハリはインドで踊りを学びましたが、寮の同室者の少女、ラナ・プラから性愛の手ほどきを受けます。他にも、アンツェ、バービーといった少女達の行為も垣間見て、マタ・ハリは大いに影響を受け、自慰をしていたところを叔父に見つかり、いわゆる、いたずらをされてしまいます。修道院でもまた、彼女はヘンリーテ、マリアといった学友と、性愛の知識と実践を行なっていったのでした。
ところが、結婚した夫のマクレオドは、非情な暴君で、マタ・ハリをはなはだしく消耗させます。加えて、浪費家の夫は大金を得るために、マタ・ハリに売春のようなことを強要するのでした。けれども、資産家のピーターは初めて彼女を大切にし、二人は互いに恋慕の情を抱きます(このあたりは、もっともロマンチックです)。残念ながら、間もなくして、マタ・ハリは彼の最期の報告を知らされるのでした。
マタ・ハリは踊り子としてデビューし、またたく間に有名になりますが、性愛の欲求を抑えられませんでした。身分と顔を隠して、いかがわしい場所へ通い、見知らぬ男性と、夜の恋人になります。高位高官、各国の重鎮達とも夜の相手をするようになり、彼らの要求に応えるうち、彼女は逮捕されてしまい、裁判で有罪判決を受けてしまいます。
後半は、史実のとおりです。
マタ・ハリの古い写真などを検索して見ていますと、もちろん、相当な美女であることがわかりました。
もしかして、虚言癖や妄想の習慣があったのでしょうか?
うーむ、何度考えても、美しくて有能な彼女が、自分で創造したフィクションの沼の中に、自分からずっぷりと、のめりこんでいったというのは、不思議でたまりません。
もう一度、歴史研究家のどなたかが、マタ・ハリの行為を調べ直して、もう死んでいていない彼女ですが、もう一度、名誉回復のための裁判を行なってあげられないでしょうか。
社交界の華やかさと、マタ・ハリの運命のはかなさに、しみじみと胸を打たれる、官能的ながらも、悲しいニュアンスの小説でした。お勧めいたします。それでは。
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