『白い獣』(セバスチャン・グレイ 野間幽明/訳 富士見ロマン文庫 No.46)の感想
『白い獣』(セバスチャン・グレイ 野間幽明/訳 富士見ロマン文庫 No.46)の感想を申します。ネタバレが含まれていますので、ご注意ください。
今回は、今までに読んだ富士見ロマン文庫の中でも、暗さ、救いのなさという意味で一番かと思います。物語のバックグラウンドは、第二次世界大戦末期のナチス。主人公は、ユダヤ人でなく、アメリカ人のスティーブで、彼の元ナチス高官に対する復讐物語なのです。
簡単に、あらすじを紹介いたしましょう。
シェリア・ハリスと、激しい情交にふける仲になりましたが、実はスティーブの目的は、彼女の上司、ボルトナー博士から元ナチスの情報を得るためでした。スティーブは一見、誠実で真面目な若者に見せかけていましたが、かなりの年配で、復讐のためならば手段を選ばぬ性格だったのです。
スティーブのターゲットの一人、「オットーの豚野郎」は、無垢だった娘のエバを汚した挙句、斬殺しました。最後の相手は、ナチス女性高官のゲルダ・ブロイニング。
(以下、回想の文書に入ります)
ナチス崩壊前、スティーブはイギリス人、ロシア人といった同年輩の少年少女とともに、拘束されてしまいます。それは連合国側の人質というよりも、おぞましくも凄惨なセックス実験と、ゲルダ、オットーらの性欲と嗜虐欲を満たすためでした。
少年少女達は、近親相姦を強いられ、セックス依存症になり、互いに疑心暗鬼におちいるという、地獄絵図が始まります。そのような中、スティーブは懸命に平静さを保っていたのですが、メアリ・アンズリーと両想いになります。メアリは、ナチスに奪われるくらいなら、先にスティーブに純潔をささげたいと申し出、二人は熱く抱き合うのですが、目的を達する前に見つかって、引き離されてしまいます。
乱射事件が起き、スティーブはただ一人、奇跡のように生き残りますが、メアリは手ひどい暴行を受けて惨殺されました。彼女の無念を晴らすべく、スティーブは復讐を決意したわけです。
シェリアの情報により、ゲルダはアルゼンチンに潜伏しているとわかって、二人は向かいます。徐々に、スティーブはシェリアに自分の内面を打ち明けるようになるのですが、ゲルダに逆襲され、捕らえられた時、シェリアは何とゲルダ側にいました! シェリアはスティーブに利用されていたのではなく、ゲルダの忠実なスパイだったのです! スティーブの復讐の行方は……。
私の感想としては、エロいというより、むごい肉欲描写が連続しますので、精神的に落ちこんでいる時には、読みたくないなあ、という感じです。それはそれで、セックスには、支配被支配的な要素も含んではいますが、全然エロくないわけではありません。ただ、後味が悪いのですわ。
加えて、スティーブはもしかして、シェリアとだけは恋する間柄になるかと期待していたのに、まさか、裏切り者だったとは。
もちろん、復讐の成就=ハッピーエンドであるわけがありません。まあ、その辺は王道な、あるいはスティーブ自身からすれば、幸せな結末だったかも。
それにしても、エロというか、エンターテイメント的小説で、ナチスをテーマにするのは、ありなのでしょうか。
私だったら、被害者の方々におそれ多くて、思考停止してしまいますけどね。匂わせ程度にするのが、精一杯です。
かなり人を選ぶ内容かと思いますが、ご興味がおありの方にお勧めいたします。それでは。
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