カラーブックス252『名作の旅5 堀辰雄』(中村真一郎・小久保実 共著 保育社)の感想
カラーブックス252『名作の旅5 堀辰雄』(中村真一郎・小久保実 共著 保育社)の感想を申します。堀辰雄の小説の解説本ですので、ネタバレまみれですから、苦手な方はご注意ください。
リサイクル本屋様で時々見かける、今は無き、保育社のカラーブックスシリーズです。手のひらサイズ、二段組とはいえ200ページに満たない厚みでありながら、堀辰雄の作品とそのバックグラウンドたる軽井沢や大和路などの情景を、多くのカラーもしくは白黒写真を掲載して、イメージたっぷりに解説している内容です。
掲載作品は、『美しい村』『風立ちぬ』『木の十字架』『菜穂子』『大和路』など、主要作品すべてといっていいでしょう。
ただ、昭和47年8月1日発行ですので、情報の古さは否定できませぬ。
作者様は終始、わかりやすく、真面目に述べておられますが、もしかして、後年、異なる定説や事実が発見されたかもしれないでしょう。
巻末には何と、作者様の住所が載せられていて、昭和の時代は個人情報保護の気持ちがなかったのだなあと、戸惑わされました。
それでも、やはり、堀辰雄の小説解説本として、まだ読んでいない方向けの案内書(?)として、すぐれた中身であるなと、私は思います。
何よりも、単なる参考資料、ページをいろどるものに過ぎないはずの写真が、とてつもなくきれいで、撮影者のセンスのよさがうかがわれます。
特に、『大和路』の解説にある写真が、地元民として見ても、「きれいすぎる。こんな場所、今はないのでは!」と思って、初めの方のページに載せられた《写真撮影・提供》に、入江泰吉の名前がバッチリあって、納得できました。
学生時代、図書室で夢中になって、『堀辰雄全集』を読んでいた頃を思い出さずにはおられませんでしたね。
『風立ちぬ』の、亡き人に対する思い出、愛情、鎮魂を、一作品として表現・浄化していく過程に、私は死を越えて生きる、愛情の形を魅せられました。
『菜穂子』では、信州の自然とモダンな都会の情景とのコントラストが、ふわふわしたロマンスと、冷たく固い現実の双方に心惹かれるヒロインの内面のようで、驚くほど奥行きのある小説だなと、私は胸を熱くしたものでした。
そのような記憶と思いが、一気に想起されてきたのですから、やはり、いい内容の本だと思わずにいられません。
また、カラーブックスシリーズでいいものがあったら、読んでみたいです。お勧めいたします。それでは。
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