『トップモデル』(作者不詳 小沢瑞穂/訳 富士見ロマン文庫)の感想
『トップモデル』(作者不詳 小沢瑞穂/訳 富士見ロマン文庫No.75)の感想を申します。ネタバレが含まれていますが、大したことではないかと思います。
その理由は、この小説がつまらないからです。
あらすじを説明いたしますと、大富豪スタヴロス・ステファノスの愛人として有名な、元トップモデルのアリス(彼女が作中ヒロイン)が、「私」として、一人称で語るスタイルです。スタヴロスの急死にともない、アリスはアメリカに帰国してきました。大勢のマスコミによって追いかけられる中、プリンス・アルバートとマーク・ジャドスンの二人が彼女の世話役になります。
15年もギリシャの小島に住んでいて、アメリカの日常生活にすっかりうとくなってしまったアリスは、化粧で変装し、あちこちへ出かけては、行きずりの男達と話をしたり、恐れもせずに体の関係になったりするのでした。
そうやってすごす反面、アリスは自分の過去を想起します。異常な偏愛ぶりを示した父と、酒びたりの母という一家からの脱出、モデルとしての名声を勝ち取っていったこと、何人もの男達との出会いと恋、挫折、別れ等々。
前回の『アダムとイヴ』と共通する不満なのですが、「いくら美女であっても、トップモデルになど簡単になれるものではない」と、私は思えてならないのです。いや、アリスなら簡単になれた、というのなら、彼女にしかない美の特質を、納得いくように描いてほしかったです。
加えて、翻訳者様はなぜか、「穏やかに」という形容動詞を多用しすぎます。原文で同じ言葉が使われていたとしても、例えば、「ゆったりと」「優しく」などとして、変化をつけるべきではないでしょうか。手抜きっぽく思えてなりませぬ。
いいところは、これまた、『アダムとイヴ』にかぶるのですけれども、アメリカで流行していたウーマンリブ運動、シングルズ・バー(日本で言うところの出会い系バー)のやり取りが、生々しくておもしろいです。
しかし、私は、1970年代頃のアメリカ社会を、ぜひとも知りたいと願ったわけではないので、やっぱり、不満でしたね。
そのようなわけで、エロチックな場面も描かれていて退屈ではありませんが、メインストーリーが疑問だらけで、小説としては残念な感じでした。たまに、富士見ロマン文庫でも、はずれがあるのですね。
そうしたら、次の作品は、エキサイティングにエロくて楽しかったから、何だか運命の転変みたいです。読む方を選びますが、興味がおありの方は、どうぞ。それでは。
ご協力お願いします。
読書感想ランキング
| 固定リンク | 0
「書籍・雑誌」カテゴリの記事
- 『戸川純エッセー集 ピーポー&メ-』(ele-king books (株)Pヴァイン)の感想(2023.09.16)
- 『黒い文学館』(生田耕作・中公文庫)の感想(2023.09.09)
- 『ダミー・ワイフ』(ロバート・シェルドン 江藤潔/訳 富士見ロマン文庫 No.10)の感想・追記(2023.08.20)
- 『ダミー・ワイフ』(ロバート・シェルドン 江藤潔/訳 富士見ロマン文庫 No.10)の感想(2023.08.19)
- 『綜合ムック 世界の性愛学』(綜合図書)の感想(2023.08.15)
「富士見ロマン文庫」カテゴリの記事
- 『ダミー・ワイフ』(ロバート・シェルドン 江藤潔/訳 富士見ロマン文庫 No.10)の感想・追記(2023.08.20)
- 『ダミー・ワイフ』(ロバート・シェルドン 江藤潔/訳 富士見ロマン文庫 No.10)の感想(2023.08.19)
- 『トルー・ラブ』(ジョン・スミス 羽林泰/訳 富士見ロマン文庫)の感想(2023.04.22)
- 『トップモデル』(作者不詳 小沢瑞穂/訳 富士見ロマン文庫)の感想(2023.04.15)
- 『アダムとイヴ』(マーカス・ヴァン・ヘラー 水沢夏樹/訳 富士見ロマン文庫)の感想(2023.04.09)
コメント