『ぼくのヴィヴィエ夫人』(ユーゴ・ソレンツア 村野圭介/訳 富士見ロマン文庫 No.2)の感想
『ぼくのヴィヴィエ夫人』(ユーゴ・ソレンツア 村野圭介/訳 富士見ロマン文庫No.2)の感想を申します。ネタバレが含まれていますので、ご注意ください。
実は、こちらの本は、私がもっとも興味を引かれて読みたかった、富士見ロマン文庫のものです。理由は、タイトルがエロい、しかも、明らかに日本の官能小説ではないと思うからです。
ほら、仮に、「ぼくの緑川夫人」「ぼくのお隣の緑川のおばさん」って……。夫人とは、めったに使わないし、後者だと、児童文学みたい。
だから、少し期待していたのですが、読了してみると。
何だか、1950~70年代くらいの、恋愛小説、もしくは、恋愛映画のノベライズみたい、でした。
登場人物は、主人公は17歳の男子高校生、ダニエル・メルシェ。40歳頃ながら、30代にしか見えない、若々しくも豊満な肉体の持ち主、ヴィヴィエ夫人、またはジョゼットは近所の住む未亡人。彼女のまわりには、同年代の恋人、モーリス・タラベルと、娘のドミニック、35歳の独身の友人マリスがいます。
簡単にあらすじを記しますと、ダニエルはある日、ヴィヴィエ夫人がモーリスと濃厚に愛の営みを行なっているのを、かいま見てしまい、大いにショックを受けます。知ってか知らずか、彼女は大雨でびしょ濡れになったダニエルの世話をし、会話をするうちに、二人の間に好意が生まれます。再び会った時、ダニエルは好奇心から、ヴィヴィエ夫人は恋人への不満と、少年のみずみずしさに心惹かれてしまい、肉体関係を持ってしまいます。ダニエルは有頂天になり、いささか傲慢な暴君へと変貌していきますが、ヴィヴィエ夫人はくやしいような、それが愛しいような、複雑な気分に。
まもなくして、ダニエルは娘のドミニックとも知り合い、親しくなります。大胆な愛撫を行なうも、ダニエルは一線を越えられず、ドミニックは悲しみます。ダニエルの心変わりと、大事な一人娘のドミニックを奪われる恐怖から、ヴィヴィエ夫人は、友人のマリスに頼んで、彼を誘惑してもらいます。すんなりと、マリスとも交わってしまったダニエルですが、そのことに後ろめたさはなく、自分が本当にドミニックが好きなことを思い知るのでした。
ダニエルと会えなかったドミニックは、悩んだ末に、母のヴィヴィエ夫人にすべてを打ち明けます。ヴィヴィエ夫人はダニエルをわが家に招待するように言って、昔の恋人であるモーリスに連絡をし、そのプロポーズを受け入れます。その頃、ダニエルとドミニックは、楽しく海辺ですごしていたのでした。
では、いただけない点としては、時代が違うといえば、それまでですけれども、ダニエルが高校生のくせに、煙草を吸ったり、ヴィヴィエ夫人も彼に煙草やアペリティフを勧めたりと、今ではカットされかねない場面が、ちらほら出てきます。
もう一つ、これは私の単純な疑問ですが、カーテンを閉めていなかったとはいえ、ご近所の事情、いや、情事なんぞをバッチリ見とどけられるものでしょうか。そりゃあ、ヴィヴィエ夫人もモーリスも、不倫の関係ではないですけれども。
まあ、不服なところはここまでで、本当におもしろかったですよ。
あらすじ紹介では、便宜上、私はヴィヴィエ夫人と書きましたが、本文中では、「ジョゼットは」とも表されていて、中心はダニエルながらも、ジョゼット、ドミニック、マリス、モーリスの気持ちまで、しっかりと描かれているところが好感をもてました。
ヴィヴィエ夫人がドミニックを守ろうとし、ダニエルもまた、純粋なドミニックを大切に思うことによって、ヴィヴィエ夫人とダニエルの恋の終焉を予感させて、お話は終わっています。きっと、日本の官能小説なら、親子丼という言い方があるのですから、こんな風にはいかないでしょうね。渡辺淳一の小説にも、タイトルからして梶井基次郎のパクリ的作品がありましたっけ。
さらに、くわしく書ききれないのが残念なのですが、ヴィヴィエ夫人とモーリス、ダニエルとヴィヴィエ夫人、ダニエルとドミニック、マリスとダニエル、それぞれの行為が皆、異なっていて、全部エロチックでナイス! お尻好きの私は、マリスがベストです。
表紙と第一部第二部のカットが金子國義ですから、もう、そりゃあ、エロス面は高レベル化と思います。お勧めいたします。それでは。
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