『むちむちぷりん』(宇能鴻一郎・徳間文庫)の感想
書籍『むちむちぷりん』(宇能鴻一郎・徳間文庫)の感想を申します。ネタバレが含まれていますので、ご注意ください。
いやぁ、いきなりの精神的土下座です。正直言って、私の好きなバタイユも、富士見ロマン文庫のいくつかの傑作も、こちらを読書中は忘れてしまうほどのおもしろさでした。
私的2023年ベストブックの1冊になることは、間違いないでしょう。
ところが、惜しむらくは、この本は2016年2月発行の「精選版」なのです。名前こそ洗練されているかのようですが、実際は1985年4月刊行の文庫から、7篇を再編集した、「抄本」です。
だから、ヒロインが外人男性と知り合ったと、語っていましたが、そのお話はなく、おかしいなあと思っていましたが。
差別的表現など、問題があったのでしょうかね? とてもユニークな小説なのに、もったいないです。
そこで、私、古い方を探しておりますが、この精選版も今は品切れなのか、高いのですよね。
収録されている作品は、次のとおり。
ケイバ未亡人
二人がかりで
雪のモーテル
レモン汁
シュッシュッポッポ
残らされて
内助の功
語りは、「あたし」口調の一人称。子供のいない、専業主婦の、若奥様。夫のことは文中で、「主人」と呼んでいますが、どちらも具体的な名前は出てきません。ゲスト的な課長や部下などは、名字だけでも描かれているのに。これは、読者の想像にまかせるという、作者様の意図の現われでしょう。
あらすじとしては、東京から、北海道に短期滞在し、最後の章で、夫の昇進によりまた東京へ戻ると、ごく緩くつながっていますが、どれから読んでも支障がない感じです。
いただけない点としては、作者様のせいではないのですけれども、時代が異なりますね。国鉄、煙草の煙が立ち込めているとか、今はないですね。
しかし! 「ムチムチ、プリン」としたヒロインは、夫がいる身でありながら、次々と、様々なシチュエーションで、別の男性達とセックスしていきます。情にほだされたり、酒の勢い、ムードに流されたりと、ワンナイトも連続もありますが、堂々とした不倫です。本当に、性根が腐った、けしからん女、のはず、なのですけれども。
私は、ヒロインがどうしても憎めませぬ。むしろ、ガードが緩くて仕方ないなあ、かわいいなあとさえ、思ってしまいます。男性だったら、こういうメイクラブなら最高! と、感じるのではないでしょうか。
擬音語の多用による独特のリズム感と、明るい一人称口調ゆえかと思われますが、セックスを描いているというのならば、こちらは官能小説といえるのでしょうが、こんなに明朗ではつらつとした作品を、私は初めて読みました。
官能=エロい、インモラル、不倫、秘密、淫靡、暗いという、私のイメージを、粉微塵に打破してくれる、すさまじい魅力を放っています。
「これもエロの勉強!」と思って、無理に読んでいる渡辺淳一の作品は、途中で何度も投げ出してしまいたくなるのと、好対照ですね。
それから、まったく予想外だったのは、作者様は食べ物の描写がとても上手なのです。「二人がかりで」のおいしいギョーザの料理のコツは、真似したくなりましたし、北海道篇のジンギスカン、新鮮なカニの美味など、ダイエット中の方は要注意です。
私が一番おもしろく感じたのは、「残らされて」です。ヒロインが絵画教室に通うことになり、先生に居残りを命じられて、いたずらをされます。彼女は珍しく、懸命に拒否しようとするのですが、うまい具合に手玉に取られてしまいます。その教室の女性達は皆、先生の言いなりで、ハーレム化していました。ヒロインは考えます。
いえ、きっと、こんなに一見、瘦せ型の細い人の方が、精力的なんだわ。
それにこの人って、女弟子相手のそんなこまかい、心理のかけひきが楽しくって仕方ないみたい。
もてるコツも、わかるのですから、この本は奥が深すぎます。お勧めいたします。それでは。
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