『ダンディズム 栄光と悲惨』(生田耕作・中公文庫)の感想
書籍『ダンディズム 栄光と悲惨』(生田耕作・中公文庫)の感想を申します。ネタバレが含まれていますので、ご注意ください。
この本の内容を一言にまとめますと、19世紀のイギリスで社交界の中心であった、ボー・ブランメル他数名の男性達の人生と、彼らのダンディズムという美学を紹介したものです。エッセイとも、男性の服装の歴史ともいえましょう。
だから、昔の出来事や服装に関心のない方には、あまり、興味をそそられないかと、思います。
人間、大切なのは中味で、外見ではない! ましてや、華美な服装など、もってのほか! と、考えておられる方もいらっしゃるでしょうし、確かに、それは正しいでしょう。
しかしながら、ダンディズムに徹した、19世紀の伊達者達は、この本に描かれている限り、世間の注目を集め、あこがれの的となりながらも、幸福ではないように感じられます。
それはそれで、並々ならぬ、傑物ぞろいなのでした。
あらすじは、上記でほぼ言い尽くしたようですが、一応、記しますね。
19世紀のイギリスで、男性の服装が劇的な変化を遂げました。フリルと刺繍で豪奢に飾られていたのが、現代のいわゆる紳士服とほぼ同じスタイルになったのです。
その先駆者が、ボー(伊達者)・ブランメルこと、ジョージ・ブライアン・ブランメルでした。彼は高い教育を受けていましたが、名門貴族の出身ではなく、その落ち着き払った不思議な雰囲気が、皇太子に気に入られて、社交界デビューを果たします。彼は衣装に強いこだわりを持ち、また途方もないプライドで貴族や国王をも揶揄しますが、人々は彼を賞賛し、あこがれます。そんな栄光に満ちたブランメルでしたが、賭博による破産に襲われ、フランスに逃れます。ここで、彼は質素に暮らすどころか、高価な美術品や調度類を蒐集して、無一文の状態に。晩年は言うまでもなく……。
ウィリアム・ベックフォード。奇書『ヴァテック』の作者で、高い教養の持ち主であったのですが、貴族や議員の地位を捨てて、同性愛他のスキャンダルにまみれ、世間の批判を浴びながらも、外国の土地を買っては、風変わりな屋敷を次々に建て、一人きりになりながら、東宝君主の夢を見続けて死去。
バルベー・ドールヴィリー、フランス人で、ブランメルを敬愛し、評伝を書いた、しかし、作家というより、「老いざる獅子」のような名物男。多くの人々をふり返らせる、さっそうとした態度であり、彼は凡庸、次に老醜と戦い続けていったのでした。
ほら、ダンディ達は皆、壮絶な一生を送ったではありませんか。
服装に興味の薄い私には、男性に生まれ変わったとしても、とても真似ができませぬ。
やはり、彼らがあこがれと非難の的になったのも、納得できます。
ブランメル、ベックフォード、ドールヴィリー、彼らは個性こそ異なれども、世間の思惑、期待に応じず、ひたすら、自分の愛する、美しく繊細なものを集め、身の回りに置き、なければ必死で追い求め続けました。
外見だけにこだわった、浅薄さと、かけ離れた、むしろ、ストイックに近い美学だと、私は思います。
そして、繰り返しますが、男性の正装は、19世紀から、ほぼ変化していないということに、驚かされます。まあ、男性女性のファッションの違いかもしれませんけれども、ブランメルの美学は永遠に近いものだったのでしょうね。
男性の衣装史の参考になるかなと思って、購入した本ですが、予想外に深くて強烈な内容でした。お勧めいたします。それでは。
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