『戦争は女の顔をしていない』(スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ 三浦みどり/訳 岩波現代文庫)の感想・その1
書籍『戦争は女の顔をしていない』(スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ 三浦みどり/訳 岩波現代文庫)の感想を申します。ネタバレが含まれていますので、ご注意ください。
この本は、第二次世界大戦におけるソ連軍の従軍女性達のインタビューをまとめた、ノンフィクションです。彼女達は看護婦や軍医だけでなく、兵士やパルチザンとして、ドイツ軍と戦いました。彼女達の役目は、衛星指導員、電話交換手、洗濯係、運転手、二等兵から将校クラス、地下活動家まで様々で、裏表紙の説明によれば、「五百人以上の従軍女性から聞き取りを」行なったそうです。
まず、読了した直後の印象としては、私は胸元に銃剣を突きつけられたような、重苦しい衝撃と、ゆっくりと湧き上がる感動で、しばらく放心しておりました。次に、あのページ、このシーンと、さらにインパクトのあるいくつかの証言を探しては読み、また新たな読後感にひたる、それを何度も繰り返しましたね。
反戦文学といえるのでしょうが、この本と『アンネの日記』に、感覚的なものが共通しているように思われました。前者は戦場での体験、後者は戦争で潜伏しながらの日常生活と、真逆になりそうなのにね。やはり、女性としての視点という意味で共通しているからでしょうか。
私も少しばかり、太平洋戦争の従軍記録を読みまして、感動したこともあるのですけれども、どこの何という部隊で、どちら方面に行って、このように行軍して……と、前置きが長かったのを覚えております。ところが、この本の証言は、つい先ほど見聞きしたことを、リアルに語っている感じです。戦争体験記として、この本はイメージしやすいなと、思いました。
しかしながら、いただけないというか、ある種の欠点も持ち合わせているです。取り上げてみますと、次のとおり。
1)全体の構成上、よくわからない、もしくは、冗長な部分があります。
たとえば、序章とも呼ぶべき、最初の、「人間は戦争よりもずっと大きい(執筆日誌 一九七八年から一九八五年より)」は、40ページ以上あります。取材に苦労したこと、また、その間の作者様の気持ちについて率直に語っておられますが、それよりも先に、本文が読みたかったです。
さらに、「思い出したくない」「お嬢ちゃんたち、まだねんねじゃないか」「母のところに戻ったのは私一人だけ……」「わが家には二つの戦争が同居してるの」「受話器は弾丸を発しない」「私たちの褒美は小さなメダルだった」「あれは私じゃないわ」「あの日を今でも憶えています……」「お母ちゃんお父ちゃんのこと」「ちっぽけな人生と大きな理念について」「その人は心臓あたりに手をあてて……」等のタイトルのついた各章では、通常の説明文(グレーの背景)から女性兵士達の声になっており、やや戸惑いましたね。
2)名前が長くて、なじむのに少々時間がかかる。
P188 ワレンチーナ・ドミートリエヴナ・グローモワ 衛生指導員
P295 アレクサンドラ・セミョーノヴナ・ポポーワ 親衛隊中尉(爆撃手)
このような具合で、ロシア文学をいくつか読んだ私でしたが、自信が吹っ飛びました。慣れれば大丈夫ですけどね。
3)残酷な描写が多い。
これは本当に、心身にこたえます。猛烈に落ちこんでいる方、通院中の方は、お勧めできませぬ。けれども、これが本書のテーマの一部でもありますので、読み飛ばせませんでした。
いわゆる戦争の恐ろしさの他にも、ソ連軍内部の怖さ、男性兵士達からの嘲笑、ドイツ軍(彼女達は「ファシスト」と、呼んでいます)の残虐行為、一般女性達からの蔑視、家族による偏見、勝利に終わったはずの戦後の、孤独な地獄と、数えきれないくらいです。
重厚なテーマと分量の大作で、私なぞに、ちゃんと感想が書けるだろうかと、今さらながらに心配になりますが、精一杯、やってみるつもりです。その2以降は、印象に残った個所について記していきますね。それでは。
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