『生贄』(ジョルジュ・バタイユ 生田耕作/訳 奢灞都館)の感想
書籍『生贄』(ジョルジュ・バタイユ 生田耕作/訳 奢灞都館)の感想を申します。ネタバレが含まれていますので、ご注意ください。
発行が1999年12月です。さらに、巻末の「編集部より」という解説では、この本は、先に『供儀』の表題で『バタイユ著作集-眼球譚他』(1971年4月 二見書房)に収録されていたものの全面改訳版だそうです。1983年頃に改訳がなされたはずですが、翻訳者様が亡くなり、その書斎からこの「決定稿」が発見され、刊行されたそうです。とても思い入れの強い作品なのですね。
まあ、奢灞都館の出版物は、装丁や挿絵にこだわった、中古であっても高額本というイメージなのですが、わが好奇心は抑えられず、購入したようです。実は、私も思えていないくらいの以前、なのですが。
さて、一読。作品の内容を紹介いたしますと、実存主義哲学っぽいエッセイです。はっきり申し上げて、難解です。小難しい用語が、これでもかと、出てきます。50ページに及ばない短編でしたから、私はギリギリ眠くならずにすみました(ごめんなさい)。
たとえば、この作品はⅠ、Ⅱ、Ⅲ、Ⅳと4部に分かれていますが、私的に一番印象的だったⅡの後半部分を次に挙げますと。
理想的な煌めきに充ちた空虚な広漠、混沌の不在を露呈するまでの混沌のなかで、生命の不安におののく喪失が開ける、しかし、生命がー最後 の息の境い目でー失われたあとに待ち受けているものは、ただこの〈虚ろな広漠〉だけである。
ほら、頭の中が混乱しませんか?
最近、家族を亡くした私は、難解な言葉の羅列と感じられそうなのに、妙な生々しさを体感せずにいられませんでした。
そのような言葉のイメージに加えて、アンドレ・マッソンの、各章の始まりに挙げられている挿絵が、ペン画のラフスケッチのようなのに、これまた妖艶で意味深で、下手なヌード写真よりもエロチックで、いい意味で、私を混乱させてくれました。
結論としての私の感想は、この作品は言葉の意味を追うのもいいが、想像で遊ぶのもありだ、ということです。また、こいつは、わからなくなるとイメージでごまかしやがると、笑ってやってください。
読んでいて、まるでR18の本をこっそり盗み読みしている中学生のような気分になったのは事実です(笑)。そうして、人間としては、どうにも抵抗できない、時の流れや死という非情な、「平行的な」運命に対して、勃起した「直角的」男性器を掲げて、「私=作者」は、対抗し、存在しているように思えました。こういうエッセイは初めてで、超新鮮でしたね。
気軽に読めるものではありませんが、バタイユを知りたい方にお勧めいたします。それでは。
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