『オプス・ピストルム ’30年代パリの性的自画像』(ヘンリー・ミラー 田村隆一/訳 富士見ロマン文庫 No.89)の感想
書籍『オプス・ピストルム ’30年代パリの性的自画像』(ヘンリー・ミラー 田村隆一/訳 富士見ロマン文庫 No.89)の感想を申します。ネタバレが含まれていますので、ご注意ください。
前回の『エロティックな七分間』の読書記録を、さらに悪く更新してしまいましたよ。一ヶ月近くかかってしまいました。反省。
確かに、この『オプス・ピストルム』も似たところはありますが、私はこちらの方がずっと読みやすく、魅力的だと思います。
あらすじを説明しますと、主人公は、駆け出しっぽいアメリカ男性新聞記者のアーフ。今風に言うなら、フリージャーナリストか、フリーエディターのような気がします。社員として働いているにしては、自由時間が多そうに感じましたので。
そのアーフが一人称で、パリで味わったエロティックな体験を、時系列順に描いた小説です。アメリカ人は、パリに、フリーセックスのイメージを持っているのでしょうかね?
これまた、『エロティックな七分間』の感想どダブるのですが、エイズの恐怖のない古き良き時代の、見境なしセックスを謳歌している雰囲気です。
では、どこが『エロティックな七分間』とは違うのか、というと。
翻訳者様の手腕によるところも大きいと予想しますが、文章にリズムがあって、読みやすいのです。さらに、アーフの考えや思いよりも、ターニャ、アン、アレクサンドラ、ジーン、ビリー、ミス・キャベンディッシュ、トゥーツ、スナッグルズ(他にもいたかも)といった、性格と外見は異なるけれども、ほぼ全員、感じやすい美女達との交わりがメインです。
ちなみに、この本のタイトルはラテン語で、あとがきによれば、「粉屋(英語ではミラー)の仕事」という意味で、困窮していたヘンリー・ミラーが、一ページにつき一ドルという安価で引き受けた作品なのだそうです。
が、私はまたまた拍子抜けいたしました。場面、表現は確かに過激にエロいです。過激なはず、なのに、日本の官能小説の方が、ねちっこく&リアルにスケベに感じられてなりませんでした。読みやすい文体とはいえ、改行少なめで400ページを超えるボリュームゆえなのでしょうか、それとも、この作品は視覚がメインで、日本のもののように、五感+コンパクト文体の方に慣れてしまっているのかもしれませぬ。
それでも、私はこの作品中で、性器のことを、《ジョン・サースデー》《ジャン・ジュディ》と表現したり、無毛や性交、同性愛、近親相姦の場面もあったりして、なかなかおもしろかったです。アーフの他に、アーネスト、シド、サムといった男性も登場しますが、そろいにそろって、彼らも女好きのセックス愛好家で、こんなに都合よくいくわけないだろうと、ツッコミを入れたくなる展開が延々と続きます。
なので、十代の方と、相思相愛好きの方にはお勧めできませぬ。
私はこの超ボリューム、過剰読者サービスで、おなか一杯になってしまいましたが、案外、パラ読みすると、おもしろい小説だろうなと、思います。興味を持たれた方は、どうぞ。それでは。
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