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2024年1月 7日 (日)

『フランケンシュタインの男』(川島のりかず・マガジンハウス)の感想

 コミック『フランケンシュタインの男』(川島のりかず・マガジンハウス)の感想を申します。ネタバレが含まれていますので、ご注意ください。
 この本の発行は、2022年12月1日ですが、ひばり書房からの原書は、P191の川島のりかず略年譜によれば、1986年11月です。それには、SFミステリーとジャンル分けされていますけれども、私は心理ミステリーか、サイコホラーとした方が、しっくりくるように思えました。
 怪奇/ホラー漫画で30年の歴史があったらしい(P199)ひばり書房に29冊もの書下ろし単行本を描きながら、88年10月の『中学生殺人事件』を最後に姿を消し、2018年に亡くなった、幻のホラー漫画家、川島のりかずの、最高傑作(帯カバーによる)だそうです。
 かなり特殊なひばり書房や、実績はあったはずなのに、漫画家を引退せざるを得なかった作者様のくわしいエピソードについても、この本は後半でよく説明されております。興味を持たれた方は、購入してみてください。
 私は、特にホラーブームでもない最近になって、注目されてきた漫画家様の作品ということで、購入したわけです。
 あらすじを簡単に記しますと、主人公は二十代の真面目な会社勤めの青年、空木鉄雄。鉄雄は女社長亡き後、満たされない毎日を送っていた時、不意に、自分の身近に、得体のしれない少女が見えるようになります。思い余って、医者に相談すると、彼女の顔面が血まみれになっていることと、正体が判明。
 彼女の名は君影綺理子、裕福な家庭に育ちながらも、病弱なゆえか、ひどくわがままで、フランケンシュタインを気に入っていました。小学生だった鉄雄は綺理子を喜ばせようとして、フランケンシュタインの面を作り、かぶってみせます。そうやって、綺理子に命令されるまま、鉄雄はフランケンになりきって、子供達に好き放題の乱暴をし続けたのでした。ところが、綺理子は不注意で井戸の中に、転落してしまいます。鉄雄はそれを誰にも打ち明けられないまま、上京し、大学を卒業し、綺理子と似た女社長のいる会社に就職したわけでした。
 埋もれていた過去を思い出した鉄雄でしたが、虚しい気分は増すばかり。鉄雄は綺理子の幻? に導かれるまま、フランケンシュタインのマスクを購入し、子供の頃同様に、それをかぶって、公園などで遊ぶ子供達を襲い始めます。大勢の子供達が逃げ惑ううち、大人も多くなりますが、鉄雄はフランケンのまま、彼らにも暴行を働きます。その存在感と強さに、人々は恐れる以上に圧倒され、「フランケン! フランケン!」と、連呼します。さらった子供を高く掲げ、酔い痴れたように応える彼は、もはや鉄雄ではありませんでした。そして、一人の私服警官が、鉄雄に向けて発砲します。










 川島のりかずの漫画を画像検索すると、なかなか、残忍、グロテスクな絵も出てきますが、怖い絵というならば、私は他の漫画家様の方がすぐれているように思えました。
 この作者様は、ストーリー展開で魅せ、セリフや雰囲気で恐怖を演出していくタイプではないでしょうか。
 成人した鉄雄の、真面目ではあるけれども、妻にさえ軽んじられている様子。綺理子と知り合った頃の、弟が生まれて、母には相手にされず、父からは弱い男と、冷たくあしらわれ、近所の小学生にいじめられても反撃できない辛さ。綺理子は綺理子で、何もかも見下す、女王様気質のわがままぶり。鉄雄のまわりの環境など、結構、現在にも通じるものがあると、思います。一人くらい、鉄雄に同情したり、親切にしたりする人物がいれば、彼の運命と心は変わっていたでしょうに。
 ラストで、鉄雄は自分の本当の気持ち、願望に気づき、過去からずっと抑圧されていた顔とは打って変わって、晴れ晴れとした表情になるのですが、描かれていませんけれども、もう平穏で幸せな日常は、訪れないのではないかと、予想されます。
 鉄雄自身、実際に駄目なやつですが、彼を追い詰め、事実上、未来を破壊した、綺理子の恐ろしさは、やはり、格別です。
 小さなギャグさえなく、シリアスで重く、ほろ苦い読後感が残ります。爽快感は、たぶんゼロです。それでも、リアルな非日常体験、心理ホラーをお好みの方に、お勧めいたします。私は、このような救いがあるとも、ないともわからない、絶妙な雰囲気に心惹かれましたので、かなり気に入っています。それでは。

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