『ラブレター フロム 彼方』(早見純・太田出版)の感想
コミック『ラブレター フロム 彼方』(早見純・太田出版)の感想を申します。ネタバレが含まれていますので、ご注意ください。
私は乱読派なので、ノンフィクションから、漫画や官能小説を含む、男性向け創作物まで読みます。気に入ったものは、記事の文末でお勧めすると書きますし、そうでなければ、スルーなのですが、この本ばかりは勝手が違います。
一応、ジャンルとしては、男性向け成人指定漫画ですが、この収録作品を読んで、ドキワクするのはまだしも、あこがれる方は危険です。
もう一つ、性的被害にあわれた女性の方は、絶対に読まない方がいいです。トラウマがよみがえってしまう危険があるからです。
そうして、私を含めて、この作品群になぜか心惹かれてしまう方は、有害図書反対運動などをしている良識派の方から批判されるかもしれませぬ。
だからといって、この作者様の本がベストセラーになって大絶賛されたら、それもそれで、恐ろしいです。
つまり、それくらい、早見純の作品は美しいのに腐り果てていて、極上の甘さを持つ猛毒なのです。
今回のレビューは、コメントをおことわりいたします。ご了承ください。
収録されているのは、巻末の説明によると、1985年から2000年までの読み切り短編で、「純の本番」は完全リテイク作品だそうです。
発行年月日は2000年9月で、私もプレミア価格で購入せざるを得ませんでした。
収録作品と掲載順は、次のとおり。
純の暗い情熱
閉ざされた扉
肉塊16年
美奈の夏は終わった
窓のない部屋
午前四時まで
極悪バナナ
真夏の震え
涼子・夏に……
ボーナス・トラック(単行本初収録) ラブレター フロム 彼方
復活祭
純の本番
あとは、解説と、作者様のロングインタビューが載っています。
作品の特徴としては、少年や男が、愛らしい幼女、少女に対して、容赦なく、強姦や殺傷などの暴力をふるう描写が多く、被害者は心身ともにボロボロにされ、時には絶命します。加害する者の興奮と喜悦、被害者の絶望や苦悶、走馬灯までも描いていて、その迫力は、気分が悪くなるほどです。
もう一つ、純という作者様と同じ名前を持つ、あまり目立たず、非モテ系の少年のお話は、少女達にあざけられたいという、ドМ願望の妄想に悶々としています。
私としても、不愉快な気分になったのは、「閉ざされた扉」「肉塊16年」「真夏の震え」といった、少女達を虐待、快楽殺人においやって、喜んでいる男達のお話です。そりゃあ、彼女達に油断はあったでしょうが、人形や肉塊あつかいされていいものではありませぬ。
苛立つ一方、作品中に描かれる少女達は皆、天使のように愛らしいです。私が知っている漫画家様の中でも、かなり上位の画力を持っておられるようです。それだけに、少女のおびえる表情、苦痛や恐怖にゆがむ顔などがリアルで、いたたまれなくなります。
私が特に秀逸と思ったのは、「極悪バナナ」「ラブレター フロム 彼方」「復活祭」です。
「極悪バナナ」は、ゲーム感覚で少女達を強姦する、極悪な男が、目をつぶして口もきけなくしたはずの唯一の目撃者の少女によって、思いがけない復讐を受けるというもの。男が母親の遺体を見た瞬間の、肉欲まみれの卑しい面相から、涙あふれる純粋な少年の表情に変わる描写は、本当に息をのんでしまいます。
「ラブレター フロム 彼方」は、はるか宇宙から飛行してきた、形も姿もわからない、謎の存在によるモノローグのみで構成されています。その存在は、地球上で繰り返される、性的暴力、殺人、通常の性交を見渡し、「よしっ」と、歓喜します。「有史以来 人類絶滅まで/犯しまくる 殺しまくる」と、うそぶく「オレ」の正体とは……。これほど哲学的なエロ漫画は、初めてです。
「復活祭」は、強姦され負傷した少女の、実に長いモノローグが、涙をさそうほどに生々しいです。
どこだか知らない
こんな寂しい場所で
たった一人で
死んでいく
私が
存在しない世界…
粉々に砕け
散ってしまえ
私達はきらいな相手に対して、心の中で、「死ね」と、言いますが、実行しません。この本の憎むべき男達は、欲望の命じるままに、垣根を越えてしまったのでしょう。
一方、加害者と被害者の間に、とてつもない心理的格差があるわけではないのです。人間とは、救いようがなく汚らしくて、血と欲望にまみれているけれども、美しくて魅せられてしまう、不可解な進化途上の生物のように感じさせられてしまいます。
作者様はきっと、私のような感想を、もっとも嫌われるでしょう。何とぞ、検索されないよう、祈ります。それでは。
ご協力お願いします。
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