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2024年5月24日 (金)

『神も仏もありませぬ』(佐野洋子・ちくま文庫)の感想

『神も仏もありませぬ』(佐野洋子・ちくま文庫)の感想を申します。ネタバレが含まれていますので、ご注意ください。

 この本は、エッセイです。絵本『100万回生きたねこ』の作者様が書かれたので、私は結構、楽しみにして読んでみました。
 結果、かなり骨太で、男性作家のものではないかと、錯覚してしまいそうな読後感でしたね。

 簡単に内容をご紹介いたしますと、北軽井沢で一人で暮らす作者様の日常を描いたものです。
 アライさん、アケミさん、マコトさん夫婦、「謎の人物」ハヤシさんなど、友人知人も登場し、愛猫のことも言及されており、孤立してはおりません。
 しかしながら、情け容赦ない感じなのです。
 登場する方々はもちろん、読者も。さらには、返す言葉の刃で、作者様自身の、のど元や左胸に突きつけているみたいに思われました。

 オブラートに包むというか、婉曲的な表現、甘さというニュアンスがないのですよ。スパッ、スパッと、断言しているわけでないのに、断定調なのです。
 作者様は繰り返し、60代の自分の年齢を話題にしますが(すごい!)、仏教で説くところの四つの大きな苦しみのうちの、老いと死が、全編に渡って感じ取れます。
 エッセイは、のんびり読める、とっつきやすい気楽な表現物だと感じている、私達の先入観を、たたき斬られるように感じられました。
 掲載されている18編のうち、私が特に印象に残ったのは、「声は腹から出せ」「フツーに死ぬ」「謎の人物『ハヤシさん』」です。
「声は腹から出せ」は、ふとしたきっかけで、浪曲を聞いた作者様ですが、二代目虎造の清水次郎長伝が、とてつもなくおもしろかったそうです。腹から出す、りりしい美声が、かつての大衆芸能の花形で、日本人の心の姿でもあった、と、私も浪曲が聞いてみたくなりました。
「フツーに死ぬ」は、猫の闘病と死のお話。愛猫は、騒ぎもあがきもしないで、静かに運命を受け入れます。看病に明け暮れながらも、作者様は猫の様子に感動し、その最期も描きます。そんな猫の死の報告を、知人はフツーに……という、しめくくりが、何だかかっこいいと、私は思います。
「謎の人物『ハヤシさん』」、作者様はサンゲタンを作るべく、朝鮮人参を入手しようとしますが、謎の人物「ハヤシさん」にお世話になって……というお話。作者様のサンゲタンの美味に、うっとりする反面、試食した知人達の感想は今一歩、というところが、おもしろおかしい。けれども、作者様はやはり、サンゲタンを楽しく味わい続けたそうです。我が道を行くのは、いいですねえ。
 骨太で、老年の生活の苦闘、別れの辛さ、それらが渾然となった泣き笑いのお話ですが、この作者ならではの味ですね。読者を選ぶと思いますが、私はかなり好きです。それでは。


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