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2024年8月23日 (金)

『一万一千本の鞭』(ギヨーム・アポリネール 須賀慣/訳 富士見ロマン文庫 No.76)の感想

 書籍『一万一千本の鞭』(ギヨーム・アポリネール 須賀慣/訳 富士見ロマン文庫 No.76)の感想を申します。ネタバレが含まれていますので、ご注意ください。

 おもしろくて、最後まで楽しめる内容でした。
 私にとって、間違いなく、富士見ロマン文庫の最高傑作です。

 あらすじをご紹介いたしますと、主人公は美貌のルーマニア青年、モニイ・ヴィベスク。別名プリンス・ヴィベスクといい、彼がブカレスト→パリ→オリエント超特急→旅順と、旅と逃避行を続けながら、様々な男女と関わり合い、犯し、お釜を掘られ、殺し、逃げまくります。最期は、奇しくも、モニイは、Ⅱ章の冒頭で、19歳のマドモワゼル、キュルキュリーヌを口説いた台詞そのままの運命に。
「(中略)もしわたしがあなたをベッドにお連れしたら、続けて二十回も情熱を証明して見せられるんですがねえ。もしこれが嘘だったら、一万一千の処女の罰を受け、いや、一万一千本の鞭でたたかれてもかまいませんよ!」
 そうして、モニイは全裸で、一万一千人の日本兵に鞭打たれる刑に処され……。

 読み始めた時は、ボキャブラリー豊富なエロ小説だと、私は思いました。少々、知識をひけらかしすぎで、いやみだな、とも。
 しかし、読み進むにしたがい、開いた口がふさがらなくなりました。官能描写といっても、こうも次々と、あらゆるバリエーションで休みなく続くとは!
 さらに、どんなハードでもソフトでも、エロというものは連続すると、飽きてしまうこともあるのですが、開いた口がふさがらないまま、一気に読ませてくれました。この表現力とストーリー構成は、学ぶ価値ありだと、私はうならされましたね。

 ただし、少々、いただけない点もあるにはあります。
 まず、性的好奇心が旺盛すぎる、もしくは、危ない方向に及んでいる方は、いたずらに刺激されるだけなので、危ないかもしれません。
(でも、冒頭は、前衛的な純文学っぽい雰囲気なので、近づきにくいと、予想しておりますが)
 もう一つ、同一の画家様によるらしい、多くのエロチックな挿絵が掲載されていますけれども、何という方なのか、わかりませぬ。恐らく、外国の方だと思うのですが、編集者側が選んだ絵なのか、物語の場面に合っているような、ずれているような、人前で堂々と見せられないものの、微妙な感じです。
 性的バリエーションも豊富なら、モニイが関係した人々も多く、しかも、彼ら彼女らも、それぞれに性的欲求や不満を抱えていて、問わず語りに、モニイへ話します。
 特に、パリジャンヌのキュルキュリーヌとアレクシーヌは、最初の方から最後まで、狂言回し的に、モニイの運命に影響を及ぼしますが、私が一番印象に残ったのが、旅順の日本娼婦、キリエムと、彼女の打ち明け話です。ここでは、忠臣蔵、太閤記といったことまで明かされ、作者様の知識の広さには驚かされました。
 ところが、モニイは、キリエムの元愛人を串刺しにして殺し、おまえの望みをかなえてやろうと言って、彼女の頭を拳銃で撃って、脳みそを飛び散らせます。そう、このお話は、エロというより、ピカレスク小説の方が近いです。
 最後に、この物語と、作者のアポリネールの年譜と解説が、実にくわしく、興味を起こさせます。私は、他の小説も読みたくなりました。お勧めいたします。それでは。

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