『バビル2世』1、2巻の感想(やっと・・・・)
本日未明のあらすじ紹介に続いて、漫画『バビル2世』(横山光輝・秋田書店)、豪華愛蔵本1、2巻の感想を申します。やはり、ネタバレがありますから、ご注意ください。
今まで、横山作品を読んだことはありましたが、通しで読んだのは初めてです。前フリで、「誰も同じ顔に見える、能面みたいな二名目顔」と、私は偏見を持っておりましたが、なかなかどうして、登場人物全員、多彩な表情を持っています。特に、あらすじではストーリーに関係ないので、すっ飛ばしましたが、1巻に登場した、飲酒にスピード違反の運転をした挙句、交通事故死するカップル、同じく1巻で、改造人間から銃撃されて重傷を負い、苦痛にあえぐバビル2世。2巻の、死んだ旅客機のパイロット、悪魔に襲われて苦しむ局員など、死人および苦しむ表情が、すごく生々しい! 淡々と読んでいて、思わずページをめくる手が止まってしまいそうになります。
そして、私が一番の特徴だなと思うのは、まだ6巻以上残っているのに、結論は早いかもしれませんが、ストーリーにまったく揺るぎがないことです。伏線をあまり引っ張らず、すぐに解決や種明かしをしています。こんなに、鉄壁のようなストーリーを展開する漫画は、初めてだと思います。伏線を引っ張り過ぎないのは、アップダウンの急降下ストーリーがないということで、欠点かもしれませんが、横山さんにとっては立派な長所であり、個性だと思います。むしろ、ドラマやアニメ化などを行なう上で、ストーリーが鉄壁だからこそ、オリジナルエピソードを加えるなどの演出がしやすいのではないでしょうか。
そして、これは個性であり、もしかして欠点なのかもしれませんが、ツッコミどころは満載です。
どうして、浩一は平和な生活を捨てて、バビル2世になることを受け入れるのか。浩一はいきなり、バビル2世と名乗ることが恥ずかしくないのか。バベルの塔のコンピューターは万能なのに、登山服、パジャマ、学生服以外に、バビル2世の私服を用意してやれないのか。対するヨミも、たった一つの服装しかないのか。・・・・いや、もうやめます。たぶん、ツッコミどころが満載だからこそ、「私だったら、こうするのに!」と、演出係は考えて、そのために横山作品はたくさん映像化されてきたのではないかと、私は予想しております。
ツッコミどころの一つ、1巻で重傷を負ったバビル2世は、ロデムによって、古見医院に運ばれます(直接、ストーリーに関係ないので、あらすじでは省略しました)。そこには、由美子という、ストレートのロングヘアの、かわいい少女と、バビル2世は、「浩一くん」「由美ちゃん」と呼ぶほどに親しげで、由美子は「わたしの同級生」と、父親の医者に話していますが、さらにつっこんで、幼なじみ(この可能性が一番高いかな?)か、ガールフレンドなのか、そのような説明が一切ありません。しかし、「由美ちゃん 由美ちゃんのおとうさん(医者なのだから、普通、「先生」って呼ばないかな?) 何も聞かないでほしいんだ」と、両親同様、一家を巻き添えにしたくないことを告げて立ち去るため、興味をそそらずにいられないのです。横山さんの無意識で創ったのかもしれませんが、さあ、自由に演出してくれといわんばかりのエピソードですね。
バビル2世が正義の味方で、虫も殺さないような顔をしているくせに、かなり性格が悪く、ヨミとその部下には容赦しないことは、前に申しましたね。逆に、ヨミの部下は、ヒマラヤの村の住民がヨミをうやまっていたり(1巻)、任務に失敗しても、ちゃんと救出してくれたり(2巻)、「ヨミさまの身に 何かあったら大変だぞ」(2巻)と、ヨミを心から心配したりと、世界征服を目指す割には、性格のよさが目立ちます。単純な勧善懲悪調のSF漫画というより、SFベースの肉親同士による、宿命の対決といった方が近いのでは? ひょっとして、横山さんは、従来の勧善懲悪ドラマに飽きて、『バビル2世』で新機軸を打ち出そうとしたのではないでしょうか(いや、違っていたら、ごめんなさい、ですが)?
とにかく、いろいろ深く考えずにいられないほど、奥の深い漫画です。それでは。
(補足)当初、「由美子と浩一は、どんな関係か、全然わからない」と申しましたが、原作(文庫本1巻・P206)で、由美子は「わたしの同級生」と言っていましたから、訂正いたしました。申しわけありません。(2010年6月10日)
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コメント
紅林真緒さん、はじめまして。「バビル2世」のご感想、興味深く読ませていただきました。
私自身、実は横山版「バビル2世」の大ファンで、アニメなら1973年の東映動画(現・東映アニメ)版のファンです。
そんなこともあって、他人様の感想を読むのが大変好きです。紅林さんの「ストーリーにまったく揺るぎがない」というご意見に、今さらながら目からウロコ状態です。・・・そ、そうか。たしかに!
紅林さんは、「バビル2世 ザ・リターナー」もお読みになってるんですね。まだ始まったばかりだけど、これ、面白いですね。
今後もいろいろと感想等、upしてくださいね。期待しています。
投稿: 一人虫 | 2010年3月13日 (土) 01時17分
いらっしゃいませ! コメント、ありがとうございます。
しかしながら、返事が遅れてすみません。
えっと、感想で言い忘れていたことを一つ。
私は2巻で、バビル2世と、バビル2世になりきったヨミの、二人の命令にふり回されるロプロスが大変だなと想像し、クスリと笑ったわけですが、実際にロプロスがオタオタしているとかの、「笑えるシーン」は、今のところ出てきませんね。
横山作品は、ドシリアスが真骨頂なのでしょうか?
実は、ヤンチャンのバビル2世、第1話は偶然目にした程度しか知らないのです。
第2話はどうなったのかと、興味をもって先ほど本屋に行って来ましたが、雑誌自体がありませんでした。
さらに、私は野口賢という方をまったく知りませんけれども、原作がおもしろいのですから、がんばっていただきたいと思います。
昨日、I図書館から、3、4巻と借りてきました。
いずれ、その感想も投稿するつもりですので、よろしかったら、またご訪問ください。
ブログの方も、拝見しましたよ。
なつかしいようで、熱い、ですね。
投稿: 紅林真緒 | 2010年3月14日 (日) 23時39分