『決定版 水滸伝 1巻 百八星飛翔!』(横山光輝)の感想
漫画『決定版 水滸伝 1巻 百八星飛翔!』(横山光輝・潮出版社)の感想を申します。いくらかのネタバレが含まれていますので、ご注意ください。
1巻の初出は、月刊『希望ライフ』1967年4月創刊号~1968年3月号までだそうです。なぜ、そんな細かいデータを載せているかと申しますと、帯カバーによれば、「横山光輝、32歳。」で、全6巻ですから、ほぼ既出の文庫本と同じストーリー配分と思われますが、雑誌連載時の原稿を完全再生しているのがウリだそうで。つまり、今までの単行本で省略されていた、一話ごとの冒頭にあった、「前号のあらすじ」が復活したというわけ。確かに、一つ一つ、微妙に絵柄が異なっていて、コピーではなさそうです。巻頭には、連載時のカラー4ページも収録。初版には、定期券ほどの大きさの、カラーのプレミアムカード(1巻は、魯達VS丘小乙のバトル)がついています。が、このカード、しおりか、絵はがきの方がワタシ的によかったなあ。こんなに小さいと、横山光輝さんの絵柄独特の味わいがわかりにくいです。これで、税込1050円は、どう判断すべきでしょう? ああ、関西人・・・・。
あらすじは、今から900年前(原文のまま)、大宋国で疫病が大流行した時、皇帝の使者、洪大将が仙人に祈祷を頼みにやって来ますが、寺内の伏魔殿を面白半分に解き放ったため、百八星=百八の悪魔が飛び立ってしまいます。数十年後、高俅(こうきゅう)という男が皇帝に取り入って、異例の昇進を遂げますが、八十万禁軍師範の王進は、以前に高俅とトラブルを起こしていたため、彼の報復を恐れて、母親と一緒に家を出て逃げます。途中、一夜の宿を借りた邸宅には、棒術の巧みなその家の息子、史進がおりました。史進は王進に完敗して彼の弟子になり、ついには九紋竜 史進(くもんりゅう ししん)とまで呼ばれるようになります。ある夜、少華山の山賊と衝突しますが、史進は逆に頭領の陳達を捕らえたところ、仲間の朱武と楊春が、陳達を許すよう、平伏して頼みます。彼らの侠気に打たれて、史進は酒を酌み交わしますが、役人の軍勢が乱入。史進は撃破したものの、家屋敷を焼かれてうしない、放浪の旅に出ます。
そんな史進が旅先で出会ったのは、提轄(憲兵)の魯達。魯達は偶然、歌うたいの父娘を苦しめる、肉屋の鄭関西の横暴を知り、制裁を加えますが、あやまって殴り殺してしまいました(おいおい)。おたずね者になりながら、魯達はその合間も、盗賊の丘小乙、崔道成を倒すなど大暴れ。身分を隠すため、剃髪し、花和尚 魯智深(ろちしん)となり、重い錫杖を軽々とふり回します。その様子を垣間見ていたのは、八十万禁軍師範指南役の一人、豹子頭 林沖(ひょうしとう りんちゅう)という青年。林沖は、高俅の息子に妻が言い寄られたのを追い払ったので、彼の恨みを買い、濡れ衣を着せられて流刑にされます。
途中、魯智深、地元の有力者の柴進(登場はわずかですが、今後、水滸伝世界に関わる人物)に世話されるものの、林沖はずっと命の危険にさらされ続けますが、逆に、役人を殺害してしまいます。帰るべき場所を失った林沖に、柴進は、山賊の居城、日陰者の別天地、梁山泊(りょうざんぱく)を勧めます。林沖は苦労して、天然の要塞、梁山泊に到着し、首領と会見します。しかし、自らの座を守りたい小心者の首領は、林沖に、梁山泊入りの条件として、人間の首一つを要求します。やむなく、林沖は応じますが、やって来たのは、顔の左半分に大きなアザのある、ただならぬ雰囲気の武芸者。その青面獣 楊志(ようし)は親衛隊将校で、林沖と互角に戦ったため、首領は彼らを引き分けさせて、林沖の梁山泊入りを許し、楊志をも酒盛りに招待します。実は、楊志は任務を失敗したため、あえて身を隠し、浪人になっていたのでした。引き止めようとする林沖達をことわり、楊志は高俅の元へ参りますが、赦免どころか、追い出されてしまいます。路用の金が尽きた楊志は、持参の名刀を売ろうとしたけれども、ならず者にあざけられて、思わずそいつを斬り殺します。武士でなくなった楊志は、いずこへともなく立ち去るのでした。
簡単にすませるつもりが、長々と・・・・すみません、でも、猛烈におもしろかったのです!マイナスポイントは、絵柄が昔風で、ギャグっぽく感じられることと、史進と林沖のキャラクターが、横山光輝さんにしては珍しく、一見したところ、区別がつかないことでしょうか。そして、お話が進むにつれて、なぜか史進が登場しなくなってしまいます。絵柄は、かなりかっちりしてきますよ。
三国志(小説版)は読んだくせに、『水滸伝』との出会いは、これが初めて。最初、百八人の極悪人を、梁山泊とかいう、株式会社正義の味方(『あばしり一家』〈永井豪〉より)みたいな集団が倒していくストーリーかと予想していたのですが、九紋竜 史進、花和尚 魯智深、豹子頭 林沖、青面獣 楊志とも、百八の悪魔の化身のようで。そして、お話は史進、魯智深、林沖、楊志と、リレーのバトンを回していくかのように、中心人物が変わっていきます。おもしろいなと思ったのは、酒盛りのシーンが多いこと。お菓子は食べないのね、彼ら。ちょっと、おかしい! そして、あらすじでは省略しましたが、王進の母親が発言力を持っていたこと。林沖が「先祖伝来の家屋敷と財産を煙にしてしまった」と、嘆いたり、楊志も、「わし一代で その家を絶やしたくないのだ」と、こだわったりと、今の私の感覚では、頭でわかっても、心はまだ受けつけていないようです。まあ、それがおもしろいと言っちゃあ、おもしろいのですが。
お気に入りなのは、短くしたくともできなかった、あらすじから察していただけるでしょうが、とにかく! 理屈抜きにおもしろい! 主人公達はもちろん個性的ですが、悪役達もバカじゃない! あれよこれよと、ワナをはって、主人公達が無事に突破したり、反撃したりするのが、胸がすく思いです。
さて・・・・問題発言をさせていただきますので、下品表現がお嫌いな方はスルーしてくださいね。
もしかして、横山光輝作品は、拷問とまではいかなくとも、激痛をともなう責められシーンが多い!
さらに、主人公達は根性があるタイプが多いですから、なるほど、SMっぽくエロさがにおい立つわけですな。
そこで、この『水滸伝』1巻における、責められシーンは、あらすじで省略しましたが、林沖の受難! 両足を熱湯につけさせられる、首かせをつけられて、よろけているのに、嘲笑されながら、馬で引っ張られると、本当に容赦なしです。それだけに、後半の林沖の反攻・反撃の激しさが生きるのでしょう。
2巻からは、私のお気に入り人物が、二人も登場します。はりきって、レビューするぞ! それでは。
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