『殺っちゃえ‼ 宇喜多さん』1巻(重野なおき・リイド社)の感想
四コマ漫画『殺っちゃえ‼ 宇喜多さん』1巻(重野なおき・リイド社)の感想を申します。ネタバレが含まれていますので、ご注意ください。
今回は歴史四コマがお得意な作者様の作品の中でも、戦国三大梟雄の一人で最恐と言われる大名、宇喜多直家が主人公です。恐らく、今までの主人公の中で、もっともダークかつ陰キャだと思われますが、どんな作品になったでしょうか。無暗に暗い雰囲気なのではないかと、私は危ぶんでいたのですが、杞憂でした。テンポのよいギャグは、健在です。ただ、宇喜多直家の他にも、インパクトの強いキャラクターがいましたね。
あらすじとしては、後に宇喜多直家となる、利発な少年、八郎でしたが、祖父の能家が島村盛実に城を攻め落とされ、自殺するところから始まります。すべてを失った一家は、備前から備後へ移り住み、豪商の阿部善定の援助を受けながら、生活します。ほどなくして、実父の興家が死亡し、その7年後に、八郎は大名の浦上宗景に仕えることになります。
やたらと明るくて宴会好きな主君に、八郎は戸惑うものの、初陣で手柄を立てて乙子城の城主に出世。海賊と渡り合いながら、後に宇喜多三家老と呼ばれる、有能な部下も集まります。着実に地歩を固めていった直家でしたが、浦上宗景から、浮田国定を討つべしとの命令を受け、正攻法で戦って勝ちますが、四年もかかった上、大勢の部下の死亡もあり、直家は戦そのものに疑問を持ち始めます。
二年後、中山信正の娘と結婚し、娘達も生まれますが、さらに八年経って、浦上宗景から仇敵の島村盛実と……義父の中山信正の討伐指令が下ります。直家は即座に応じて、自らの手で中山信正を、次に、島村盛実を謀殺します。結果、妻は衝撃を受けて自殺。直家は、中山、島村の領地をもらいましたが、備中の強敵、三村家と接することに。悲劇的な試練を乗り越えた直家の内面に、暗黒の情熱が宿るのでした。
私は他に4冊の作者様の単行本を買いましたが、こちらが強烈な印象ゆえに、おもしろかったです。
利発な少年が、祖父の仇討と宇喜多家の再興を願ううちに、主君の命令に従わざるを得ない→目的のために手段を選ばない→謀殺という過程を経ていくのが、ちゃんとギャグの小技を効かせながら表現されており、お見事でした。
文章では書ききれなくて残念なのですけれども、愛らしい少年が、暗黒の殺意を抱く男へと、表情が変化していく様子は、必見の価値があります。特に、17話「飛んで火に入る標的二人」の、冒頭上カットの直家の表情は、冷たくも迷いはなさそうなのに、なぜか悲しげに見えます。
もう一つ、絶対に忘れてはならない存在が、浦上宗景! 今まで読んできた作者様の作品の中で、もっともド派手な外見で享楽的な性格のようですが、「圧倒されます‼」(母)「暗愚ではありませんね」(阿部善定)。ただ、離反する者には容赦しません。さらに、直家の表情などの微妙な変化から、心の内を読み取るのも得意なようです。
浦上宗景と直家の関係については、15話「標的は仇敵と義父」冒頭上カットが、ただならぬ緊張感をはらんでいます。残酷な指令の後、一人で高笑いするあたり、直家よりも恐ろしいタイプとしか思えませぬ。
ともあれ、備前の独特な支配状況も学べて、とてもおもしろい作品だと思います。2巻発行まで時間がかかるでしょうが、私は待って購入しますよ。お勧めいたします。それでは。
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