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2023年9月 9日 (土)

『黒い文学館』(生田耕作・中公文庫)の感想

『黒い文学館』(生田耕作・中公文庫)の感想を申します。ネタバレが含まれていますので、ご注意ください。

 巻末の説明によると、こちらの本は文庫化するにあたって、底本に『生田耕作評論集成1・2・3』(奢灞都館 1991~3年)所収の改訂稿を使用し、『るさんちまん』(人文書院 1975年)よりマンディアルグ関連の原稿を追加収録したものだそうです。
 だから、これらの本をすべて持っておられる方には、内容がダブっていて、物足りないかもしれません。
 ジャンル的には、評論なのでしょうが、エッセイ的なものもありましたね。
 私的には、まあまあ読みやすかったです。
 内容は、次のとおり。

 Ⅰ 黒い文学館
 Ⅱ 新と旧
 Ⅲ 人と作品
 Ⅳ 光と影
 Ⅴ 書物のある日々


 Ⅴの内の「日々怱忙」は、作者様の日々記録なのですが、本当に日常メモのようでした。つまり、おもしろいっちゃおもしろいけれども、つまらないかもしれない? みたいな。
 Ⅰはタイトルになっている章ですが、最初の「象形文字」で、文学の秘密のすべてを解く、錬金秘法のような、「文学入門」「文学概論」が見つからない理由、次に、作者様はどうやら、理想的な文学概論を見つけたということを述べておられます。ただ……私には、残念ながら、その本を読みたい気持ちが起こりませぬ。評論慣れしていませんので。
 後半は、レチフ、サドといった、作家について語られています。レチフはマイナーでしょうか。サドも、好意的に描いておられます。このあたりから、だんだんおもしろくなってきています。
 Ⅱでは、翻訳されたバイロス画集がワイセツ図書販売容疑にされた事件について、作者様の憤激を述べておられます。申しわけありませんが、私は結構、前のめりで読んでしまいました。ワイセツと美、これらは確かに存在し、異なりますよね。作者様の主張に、私は賛成です。
 Ⅳは、作者様のお好みの画家とその作風について。おもしろいですし、いくつかは画集などを見つけたいと、思います。が、掲載されている小さなカット絵? 写真? がないと、その魅力は、なかなか伝わりにくいようです。百聞は一見に如かず、ということでしょうか。私も、こちらで絵について語る際には、いっそう気をつけて、がんばります。
 Ⅲは、セリーヌ、マンディアルグといった、ややクセの強い作家の作風に関するもの。こちらが、もっともおもしろいと、私は思います。セリーヌはドン引きしそうですが、読む価値はありそうですね。マンディアルグに興味のある方、いくつかの作品を読んだ方は、さらに関心が高まるでしょう。
 よくある、穏やかな文体の作家や小説入門ではなく、淡々とした文体の中に、作者様の冷たい怒り、静寂や気品あるものを破壊する、現代風俗に対する批判が現われる、独特な内容ですが、だからこそ、インパクトは半端ではありませんでした。私はやはり、好きですね。お勧めいたします。それでは。
 

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