『漫画家残酷物語』全4巻(永島慎二・小学館文庫)の感想
コミック『漫画家残酷物語』全4巻(永島慎二・小学館文庫)の感想を申します。いくつかのネタバレが含まれていますので、ご注意ください。
この4冊の本の初版の年月日が、昭和51年5月20日です。相当古いから、この小学館文庫版は品切れになっているかもしれませぬ。
お話は、漫画家、もしくは、漫画家を目指す青年達の、夢と希望、挫折と苦悩を描いた、1話ごとに独立した、短編漫画集といってよいかと、思います。
正直なところ、つまらなくはありません。しかしながら、私としては、不満というか、作者様による押しつけがましいテーマというか主張に、静かな怒りと苛立ちを感じずにはいられませんでした。
ゆえに、作者様の関係者、大ファンの方、公平な目でこの作品を判断しようという方には、私の感想は不向きだと、思います。不愉快な思いをなさらないよう、どうぞ、このあたりで、お読みになるのをおやめになってくださいますように。
では、あらすじは、おおよそ書きましたね。これから私の、やや批判よりの感想を記します。
時代の古さは、仕方がないですよね。2巻「嵐」に登場する汽車とか、同じく「漫画家とその弟子」で、定食の値段が60円とか、私は戸惑う度に、「昔の作品、昔の!」と、自分に言い聞かせていました。
あと、どうにも地味にきつかったのが、一見シンプルでかわいらしい絵柄ながら、ストーリー上でよく登場人物が死ぬ流れが多いですね。たとえば、1巻「坂道」、2巻「あに いもうと」「蕩児の帰宅」、3巻「遭難」、4巻「嘔吐」「ラ・クンパルシータ」「びんぼうなマルタン」、他にもあったでしょう。最近、家族を亡くした私としては、単なる演出や表現と感じられず、胸が痛かったです。それだけ、作者様にとっては、死は身近な出来事だったというわけでしょうか。
何度か永島慎二作品を読んできた私として、また繰り返しの感想になりますけれども。
本当に、この作者様が描く女性は、メンヘラ気味の美人か、おかみさんタイプしかいないのでしょうかねえ。
彼氏に平手打ちをやる強気な少女、肌は許しても心は絶対に開かない美女など、女性にもいろいろな性格があるはずなのに。
1巻「坂道」3巻「窓」など、きっと男性読者ウケはいいでしょう。私は、あんな身も心も繊弱な美少女なんて、現実離れしすぎて、虫唾が走ります。
脱線して申しわけありませんが、小説、同人誌、男性向け、女性向けなどのスタイルを問わず、ご都合主義、理想主義は定番の設定のはずなのに、おぞましく感じてしまうものがあるのでしょうか。私はそれがずっと不思議でならなかったのですが、どうやら、作者様が創作したその理想像に酔い、読み手に対して強引に、「女性(または男性)とは、こういうものでなけれなばらないのだ!」とし、暗に「他は駄目だ。認めない!」と、押し付けているのではないかと、推測しています。
もう一つ、私が納得できなかったのは、1巻「傷害保険」の、「児童漫画はりっぱな芸術だ…」、3巻「遭難」の、「一つ一つの作品が……日記よりも正しく……自分の記録としてのこっていくし……/どうじに……その時代の少年少女の心にも生きるんだ」等のセリフです。いや、それらの考え自体は反対意見を言えないほど、高尚ですばらしいですけれども、そんなに大上段に構える必要がありますか。
その当時の漫画家という職業が、底辺扱いとか落伍者の行なうものと、一般に考えられていたのはわかります。そういう家族や社会の偏見、攻撃に抵抗しなければならないのも、当然でしょう。
しかし、漫画家として一番大切なのは、シンプルにおもしろいものを、コンスタンスに描き続けることなのではないでしょうか。子供達がおもしろがるもの、大人達が何度も読みたくなるもの、大笑いして憂さ晴らしできるもの、エロいもの、世情風刺ものなど、漫画といっても、すべて異なる魅力を持っています。
それにしても、漫画家とその志望者が主人公で登場人物だから、彼ら同士の会話、またはモノローグが多いのも理解できます。でも、お願い、描いてよ、あんた達! 苦悩(苦労?)する暇があるなら、描こう! 描いてこそ、漫画家でしょうが!
特に、2巻の「漫画家とその弟子」のラストシーンは、私は腹立たしくて、本をたたきつけそうになりました。原稿にそんなひどい仕打ちをするなんて、信じられませぬ。そんな漫画家志望者なんて、本当にいたのでしょうか。
批判ばかりしてしまいましたが、これだけは認めます。
作者様を初め、この本に描かれた若い漫画家達の努力と苦悩の上に、今の漫画文化は築かれたわけです。そうでなければ、今でも、漫画家志望なんて恥ずかしいことだと、軽蔑されているでしょうし、漫画原作のアニメもドラマも流行しなかったでしょう。
人を選ぶ作品ですが、漫画家志望の方々は一読の価値があるかと思います。それでは。
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