『怪少年ジュン【完全版】+シンゴ』(桑田次郎・マンガショップ)の感想
コミック『怪少年ジュン【完全版】+シンゴ』(桑田次郎・マンガショップ)の感想を申します。ネタバレが含まれていますので、ご注意ください。
今回は、表紙イラストの、くわえ煙草で斜にかまえたジュンの風貌に、私はドはまりしてしまい、むさぼり読んでしまいました。よって、いつもにも増して腐女子的発言や表現を行なうかもしれません。すみませぬ。
作者様は8マン(未読)で有名な方ですね。収録されているのは、単行本未収録の続編2話を含んでいる『怪少年ジュン【完全版】』と『シンゴ』の、まったく別の2作品です。
残念ながら、いただけない点があります。『怪少年ジュン』は続編を加えても、やはり未完のようです。『シンゴ』は一応完結していますが、「え、それだけ?」と、言いたくなるような呆気なさで、もしかしたら未完なのかもしれません。だから、きっちり完結した作品をお好みの方は、お勧めできませぬ。
しかしながら、作者様の画力の高さは、本当にお見事といえます。
簡単に、あらすじをご紹介いたします。
『怪少年ジュン』第1話は、不良少年ジュンは、細身ながらケンカが強く、パチンコも負け知らずですが、誰もその秘密がわかりません。あるバーで、ジュンは謎めいた女性と出会い、突然、彼女の服が引き裂けたことで、チカンあつかいされますが、証拠がないために釈放されます。一人になったジュンを、なぜか彼女が車で追いかけたり、仲間の幼女ともども、不気味な団地に誘います。彼女と幼女の正体は異星人で、地球の人間が宇宙にとって危険な存在だから排除しようとしていたのでした。幼女はジュンを本気で殺そうとしますが、彼女はためらいます。異星人と狂人達によって、ジュンは死の危険にさらされる度、サイコキネシス、テレパシーなどの超能力が発動して、幼女を倒しますが、あの女性は、ジュンこそが地球人を助けられると言い残して、姿を消します。団地に放火したと誤解され、精神病院に入院させられたジュンは、自分の使命に目覚め、ひそかに病院を脱出します。
追加分の第2話「透明インベーダー」、疲れを癒すため、黒竹島へやって来たジュンは、ヒッピーのような若者達と島の少女、タマミと知り合いますが、彼らが会話するユカという女性の、声も姿も感じられません。ジュンと異星人の超能力対決になりますが、この異星人は、地球人を憎んでいませんでした。
第3話「幼女はインベーダー」、不良仲間と遊園地へやって来たジュンでしたが、しまのリボンをつけた幼女のテレパシーに引かれ、宇宙館に入ります。ところが、そこがインベーダーのわな。怪物や巨大な岩のイメージを撃退し、ジュンは負傷しながらも宇宙館を破壊しますが、仲間も幼女も誰一人、インベーダーにあやつられていたことを自覚していませんでした。
『シンゴ』は、宇宙飛行士のハヤブサ シンゴは、大流星の引力から必死で生還しますが、特殊な放射能を浴びたせいか、驚異的な回復力と運動能力を身につけてしまいます。恩師のイズミ博士を、コンドル同盟という死の商人が誘拐しますが、シンゴは車同様のスピードで走り、弾丸を浴びても死なず、激怒すると巨大な炎のような熱戦を発するようになります。怪物化する自分に悩みながらも、やむを得ず、シンゴはその能力を使ってイズミ博士を救出し、コンドル同盟の島を爆発させます。しかし、全身のエネルギーを放出したシンゴは……。
明らかに完成度が高いのは、『シンゴ』の方ですね。悪党達は退治されたから、後味も悪くありません。私としては、シンゴがスーパーマンすぎて、物足りない感じです。
でも、『怪少年ジュン』は、追加2話が雑誌のコピーのようで、あまりきれいでないことも残念ですが、3話が3話とも、よく似た背格好の少女? 幼女? が現われるのが、意味不明ですね。
今の表現なら、この漫画の第1話で、ジュンは放火容疑で逮捕となるのでしょう。が、精神病院に送られます。しかも、インベーダー達があやつるのは、危ない狂人達ばかり。発表された1972年頃は、心の病気に対するバッシングが強かったのでしょうね。
それに、ジュンの死んだ父親、大泉博士は、何を研究していたのでしょうか。あらすじでは省略しましたが、ジュンはふだん、未来科学研究所で超能力の実験に参加していたそうですけれども、そこは人工細胞、レーザー光線、未来食品、地震予知と、すごすぎる研究を複数で行なっていました。だから、ジュンは元々、すぐれた超能力を持っていたのだと、思われます。インベーダーとの攻撃に孤軍奮闘し、ケガをしますが、この姿が妙にエロい! シンゴが淡々と上空を飛ぶヘリコプターにジャンプしてつかまるのと真逆に、ジュンは死に物狂いで逃げ、超能力を発現させていきます。
特に、116~122ページまでの、一連の動きがいいです。
1.ジュンが、刃物を持った人々に、団地の屋上に追い詰められる。
2.屋上から、少し離れた池へ飛び降りて逃げようとする。
3.空中で暴徒につかまれて、バランスを崩し、地面に激突しそうになる。
4.落下しながら、ジュンは、「池よ!」と叫んで、念動力を発揮し、池の水すべてを自分にたたきつけ、衝撃を緩める。
ジュンの念動力のすさまじさは、驚かされてしまいます。
もう一つ、第1話の、最終的にジュンへ警告を発し、覚醒をうながすインベーダーの一人らしい、謎の女性ですが、彼女は、なかなかの美人です。敵か味方かわからない時の顔、地球人をよい存在に変えろ、インベーダーから救えと、助言する時の、ジュンをいつくしむような優しい表情、私は精神的に脱帽してしまいました。
第1話ラスト、ジュンは恐れも抱かず、自分の使命に目覚めて、生きてゆこうとしますけれども、モノローグと瞳の表現だけで描ききっています。ため息が出ましたね。何よりも、人物の自然なアクション、表情などを、(恐らく)スクリーントーンをほとんど使わず、線とベタだけで表現しているところに、作者様の天才性を感じさせられました。すばらしいです。
そういうわけで、惜しい部分はありますけれども、私はこの作品をお勧めしたいと、思います。それでは。
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