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2024年5月11日 (土)

『作家マゾッホ 愛の日々』(フィリップ・ペラン 黒主 南/訳 富士見ロマン文庫 No.71)の感想

 書籍『作家マゾッホ 愛の日々』(フィリップ・ペラン 黒主 南/訳 富士見ロマン文庫 No.71)の感想を申します。ネタバレが含まれていますので、ご注意ください。
 この本は、翻訳者様のあとがきによれば、「フランコ・ブロジ・タビアーニの同名の映画に想を得たフィリップ・ペランが1982年に小説化したものである。主人公レオポルド・フォン・ザッヒェル・マゾッホは、昨今大流行のキンキー・セックス(異常性愛)の本家本元として名高い」だそうです。
 これでほぼ、あらすじを説明したかと思いますが、私は映画の方は見ておりませんけれども、マゾッホの生涯の重大な情景と、いわゆるマゾヒズムの心理をくわしく描いていて、おもしろく読めました。表紙も過激ですし(裏表紙なんて、今では印刷できないのでは? 後ろ姿とはいえ、男性の……ですから)、巻頭8ページの映画中のシーンを集めたフルカラー、123~150ページまで、白黒ながら、やはり映画のシーンと登場人物達の台詞が描かれていて、なかなか刺激的でお得な仕様です。
 もう少し、くわしくあらすじをご紹介しましょう。幼い頃、乳母ハンドシャの女王のような風貌にあこがれ、十歳で叔母から鞭打たれたことによって、マゾッホは、自分の秘められた性癖に目覚めてしまいます。早熟で明晰な頭脳を持つ彼は、その小説の人気と相まって、多くの女性達と関係を持ちますが、いずれも一長一短、女王の威厳の持ち主は現れません。
 ところが、ワンダことアウローラ・ルメリンという女性からの手紙は、マゾッホを熱狂させます。アウローラは上流階級出身のふりをしていますが、本当は貧民街のお針子。上流階級に入り込むため。『毛皮を着たヴィーナス』に扮して、近づいてきたのでした。
 マゾッホとアウローラは、契約書を交わし、鞭打ちに夢中になる関係になるのですが、やがて、アウローラは身分をいつわることに耐えられなくなり、本当の素性を明かします。彼女の虐待センスに心惹かれて、マゾッホは家族や友人の反対を押し切って、彼女と結婚しました。
 次に、マゾッホは、いわゆる自分が寝取られ男になることを夢想し、アウローラに要求しますけれども、うまくはいきません。アウローラは文芸誌のオーナーのアルマンと、マゾッホはフルダ・マイスターと、ダブル不倫の関係におちいってしまいます。結婚十年で、マゾッホはアウローラと離婚し、二人の関係は終わりました。
 しかし、後に、アウローラは、マゾッホの死亡記事に対して、自分こそが彼の正妻であると抗議し、一人きりになっているのに、なおも『毛皮を着たヴィーナス』へ、心は成りきっているのでした。

 いただけない点は、特にありません。が、これが格段におもしろい! というのも見つかりませんでした。きっと、映像だったら、もっと興奮できただろうなあと、少し残念な気分です。
 逆に、マゾヒストは、従順でおとなしいイメージでしたけれども、作中のマゾッホは、かなり横暴です。確かに、鞭打ちに興奮する傾向はありますが、小説の作成、あるいは、自分のイメージをうまく再現できない場合は、アウローラに乱暴なふるまいさえします。
 加えて、マゾッホ(というか、マゾヒスト)は、アウローラが他の男と肉体関係になることには歓喜するものの、自分が忘れられる、無視されることには、激しい屈辱、憤怒を感じるものだそうです。相手が淫らな行為にふけろうとも、自分をいつも念頭においてほしい。うーん、SMとは、サディズム、マゾヒズムの省略ではなくて、SERVANTとMASTERのことだと、読んだことがありますが、そのとおりなのかも。
 だから、私は小説のスタイルを取った、心理学テキストを読んでいるような感じでしたね。
 また、おもいがけない収穫として、いくつかの卑猥語? わいせつネタ? を知ることができました。これらは、きっと役立ちそうです。
 そういうわけで、物語や評伝としては、やや物足りない部分がありますけれども、エキサイティングな要素を含んだ読み物でした。読む人を選ぶかもしれませんが、私はおもしろかったです。それでは。

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