『小説家のメニュー』(開高健・中公文庫)の感想
『小説家のメニュー』(開高健・中公文庫)の感想を申します。ネタバレが含まれていますので、ご注意ください。
この本は、1995年11月初版で、2010年11月に改版3刷として発行されたものだそうです。
内容というか、あらすじを簡単に説明いたしますと、作者様が味わった、海外メインの、食に関するエッセイ12編です。
12編とも、「美味・珍味・奇味・怪味・媚味・魔味・幻味・幼味・妖味・天味」と、同じ言葉が繰り返されながらも、2個か3個が太文字で表されている仕様です。ちなみに、第1編は、次のとおり。
美味・珍味・奇味・怪味・媚味・魔味・幻味・幼味・妖味・天味
各編のテーマは、ネズミやピラーニャ(ピラニアのことです)といった、珍しい食材。それから、作者様の好きな料理と、その味わい方に関するものですね。
なかなかの、飯テロものだと、私は思います。
しかしながら、レシピ本ではありません。ゲテモノ料理が苦手な方は、注意された方がいいかと思います。
さらに、作者様の『オーパ!』という釣り紀行? エッセイ?と、内容が重なる箇所が見受けられました。
私は作品を大して読んでいませんけれども、他にもダブっているかもしれませぬ。そういうことが手抜きっぽくて嫌いという方も、ご注意ください。
美味なる文章好き、珍奇な食材と料理は、もっと好きな、何も考えていない私は、結構、楽しめました。この作者様の文章は、わかりやすくて、目の前にあるかのように表現してくださるから、いいなあと、思ってしまいます。
私が特に気に入っているのは、第2編の、モスクワの行列の話から始まって、寒い国のアイスクリームは美味→ブラジルの果汁のシャーベットが、戦慄的に美味→ベルギーのブリュッセルのチョコレートは、気品高く、ふくよか→暑いところでは、みつ豆が最高の疲労回復剤になる、という流れのお話。私も、夏の旅行で、みつ豆を食べてみたくなりました。
4編の、果物話。美味なドリアンを選別する難しさ→クッキング・バナナの魅力→ブラジル農園の絶品アバカシ(パイナップル)。私は果物好きなので……。
全体的に、のんびり、ほんわかしたムードの、お気楽エッセイだなと思って、私は読んでおりましたが、最後の1編で精神的土下座をする羽目になりました。それは、日本で、虹のかかった湧き水が見事→世界各国の大都市で、美味な水はごくわずか→アマゾン河の水は、うまい、が……。と、相変わらずの、のほほん的な流れだったのに、古今東西、だれも語ったことのない味覚、それは水である、と!
本編最後の締めくくりは、次のとおり。
ちょっとしたことにすぎないが、ちょっとしたことが違えば大したことが違ってくるのが人生であります。
一番当たり前で華のなさそうなものこそ、もっとも重要で大切だったわけです。このラスト近くのどんでん返し的演出で、私はやはり、この本を読んでよかったと、思いました。お勧めいたします。それでは。
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