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2024年10月 5日 (土)

『道玄坂探偵事務所 竜胆』(原作:花村萬月 画:市東亮子 秋田文庫)の感想

 コミック『道玄坂探偵事務所 竜胆』(原作:花村萬月 画:市東亮子 秋田文庫)の感想を申します。ネタバレが含まれていますので、ご注意ください。
 竜胆(りんどう)とは、作中の主人公の通称で、本名、年齢、性別(!)まで不明ながらも、とてつもない美貌の持ち主です。第七話まで収録されていて完結していますが、最後まで謎めいたままでした。
 要するに、この漫画は、不思議な魅力を放つ竜胆の、探偵としての活躍を描きつつ、大都会東京の計り知れない闇と絶望、それらからの復活を見すえているわけです。

 第一話 愛人
 第二話 甘い言葉
 第三話 蒸発
 第四話 故郷
 第五話 使い走り
 第六話 マリンブルース(前編)
 第七話 マリンブルース(後編)

 あらすじ的な説明をいたしますと、第一話はホモの愛人の失踪で、竜胆はいきなり、暴力団組長から美女と見なされ、その愛人には美青年と思われてしまいます。が、竜胆は、とことん翻弄して、解決にみちびくのでした。
 第二話は結婚詐欺師に報復するため、竜胆が女装? それとも、本来の姿? になり、小気味よくたたきのめします。
 第三話は、エリートであるはずの男性が蒸発した真相について。
 第四話は、やくざの前科者である男性は、元彼女の行方を竜胆に調べてもらいます。新生活を始めている彼女の心にあったのは……。
 第五話は、レギュラー出演している、竜胆を女と思って好いている青年、松方が、大勢の男達に袋だたきにされて負傷します。それはただの暴力事件でなく、密売に関わるものでした。
 第六、第七話は、松方が知り合った小汚い少年、芳夫は、父の行方を捜していました。父親は暴力団に捕らわれており、竜胆と松方が救出に向かいます。シリーズ中、長編であるだけに、凄惨でインパクトがあります。ずっと、へらへらした印象の松方が、最後に侠気を示したために、後味のいい終わり方でした。

 それで、私も、ほぼ予備知識のないままに読み始め、「いつかは、竜胆がどういう者か、わかる」「最後くらい、種明かしされるだろう」と、予想し、期待していたのですが、最後までわかりませんでした。
 最後のお話で、過去をにおわせるようなエピソード、「写真立ての青年」があり、竜胆はモノローグで、「兄さん」と、呼びかけて(?)いますけれども、実の兄なのか、知人なのかもわからないままでした。
 だから、かっちりした伏線の回収や謎解きがお好みの方には、欲求不満になられるかもしれませぬ。
 まあ、それでも、私は、ここまで徹底的にわからないままというのも初めてで、想像を刺激されました。
 第一話のホモの男からして、竜胆に魅せられてしまうわけですが、すべての男性は竜胆を女と、女性は男と、感じてしまいます。私も男に見えるのですけれども、こういう中性的? 両性的? 人物の妖艶さは、お見事です。
 私自身、中性と両性の区別がついていませんが。
 しかし、そういう竜胆だからこそ、東京の深淵と、そこに存在する人々の美しさ、醜さ、切ない心情を、リアルにピックアップできたのではないかと、私は思います。お勧めいたします。それでは。

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