富士見ロマン文庫

2024年11月24日 (日)

『秘密の快楽者たち』(ハリエット・ダイムラー ヘンリー・クラナック 高野圭/訳 富士見ロマン文庫 No.68)の感想

 書籍『秘密の快楽者たち』(ハリエット・ダイムラー ヘンリー・クラナック 高野圭/訳 富士見ロマン文庫 No.68)の感想を申します。ネタバレが含まれていますので、ご注意ください。

 富士見ロマン文庫、私的に絶不調……。

 あらすじを説明いたしますと、刑務所の一室で、ハリーとフィリップという、男性二人が性交にふけっておりました。そのような時、スーツ姿の美女から呼び出され、ハリーは不可解な仕事の依頼を受けます。
 その女性、キャロル・スタダードは、女性雑誌の編集長。出獄したハリーは、キャロルの知名度と、立派なコネクションに驚かされます。ところが、彼女は、刑務所の相手だった、フィリップを紹介します。もう会わないはずの人間と顔をつき合わせ、ハリーはひどく気まずくなりながらも、彼女の依頼どおり、ある金満女性をだまして、所持していた宝石を入手します。
 ハリーは、宝石に魅せられた泥棒でしたが、フィリップとは自然と、協力関係に。彼らと交流するうちに、ハリーは、キャロルがフィリップに恋しているらしいと、察しますが、その二人は血のつながった、父娘でした。
 驚愕しながらも、ハリーは、フィリップとキャロルに、親子でも愛人でもない、二人だけの世界で、愛をつむいでいることを察知して、激しい苛立ちに見舞われます。キャロルもまた、ハリーやフィリップの犯罪に、刺激的なゲームめいたスリルや楽しみを見いだし、おもしろがる一方、どんなに求愛しても応じないフィリップの冷淡さをじれったく思いながらも、ハリーにも魅せられ、思慕するようになります。ハリーもキャロルの性を交えた美しさや魅力に対して、大いに惹かれるものの、宝石ほどには心を奪われませんでした。そして、ハリーは、キャロルとフィリップの制止を振り切って、最期の大仕事に向かいます……。
 

 

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2024年11月10日 (日)

『禁じられた情事』(カールトン・ルイス 石森浩二/訳 富士見ロマン文庫 No.60)の感想

 書籍『禁じられた情事』(カールトン・ルイス 石森浩二/訳 富士見ロマン文庫 No.60)の感想を申します。ネタバレが含まれていますので、ご注意ください。

 おもしろくない学術書や専門書ならば、知っていますけれども(教科書とか、ハウツー本など)、退屈なポルノ小説というものもあるのですね(泣)。

 この小説の原題は、「TO FATHER WITH LOVE」。おわかりのように、インセストものです。
 あらすじを説明いたしましょう。ある日、バート・シンプソンは、十六歳の娘のサンドラが、あられもないポーズを取っている、全裸の写真が入った郵便物を受け取ります。彼は動転し、秘書のサリーを呼び出して交わります。サリーは、サンドラが数年前に母と死別していて、難しい年頃ゆえに、母親代わりが必要とアドバイスし、バートは納得して、家政婦のグロリアを住み込みでやとうことに決めました。
 サンドラは、若くて肉感的なグロリアに反発し、わざと、自慰する様子を見せつけます。両性愛者のグロリアは、すっかり興奮して動揺し、こちらも自慰をする始末。サンドラの目的は、グロリアが性的にだらしない女だと、父に訴えて、やめさせること。けれども、うまくいかず、サンドラは自棄気味に、ボーイフレンドのポールを誘って、海に行き、砂浜で大胆に行為に及ぶのでした。
 シンプソン家の生活になじんできたグロリアは、バートの男らしい魅力に惹かれ、サンドラが不在の時に誘惑し、まんまと目的を達成します。まもなくして、サンドラは、父とグロリアが親密になっているのを直感します。サンドラはグロリアを言葉で翻弄して、二人は激しく交わってしまいました。
 また、バートは三度目の卑猥な写真を受け取って、我慢できずに、サンドラに問いただします。サンドラは、ひるむどころか、「パパ、愛しているわ」と、ささやいて、熱烈にキスをします。最後の一線こそ越えなかったものの、二人は激しく抱き合い、バートもまた、「私も愛してるよ、ベビー」と、言うのでした。
 サンドラは、父との関係を喜びながらも、グロリアとも心が揺さぶられます。思いあまって、彼女に相談した流れで、彼女達は愛の営みを初めてしまいます。また、父とグロリアが交わっているのを見ているうちに、自分もそうしたいと望み……。
 

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2024年10月25日 (金)

『歓楽のハレム』(ジョージ・ハーバート 江藤潔/訳 富士見ロマン文庫 No.64)の感想

 書籍『歓楽のハレム』(ジョージ・ハーバート 江藤潔/訳 富士見ロマン文庫 No.64)の感想を申します。ネタバレが含まれていますので、ご注意ください。

 なかなか、楽しめた内容の本です。
 もちろん、タイトルどおりの内容で、百年以上、読み継がれてきた古典だそうです。
 あらすじを説明いたしますと、23歳のイギリス人艦長、ジョージ・ハーバート卿(文中では、「私」)は、モロッコ沖合に停泊中、ほんのつかの間、船を離れて戻れなくなり、難儀していたところを、ある女性に助けられます。そこは、何と各国の美女がつどうハレムで、彼は歓待されます。彼女達九人は、やはり、艶っぽい身の上話を順番に打ち明ける一方、彼もまた、経験してきた色ざんげを語り、夢のようなひとときを過ごすのでした。

 まず、いただけない点は、表紙イラストが、恥ずかしすぎます。足を開いた美女で、しかも、表紙のほぼ中央に(自主規制)なので、カバーをかけずに人前で読むのは無理ではないでしょうか。
 それから、最後の締めをつとめる、ルネというフランス娘がもっとも美しくて、語りも一番長かったのですが、序盤にあった、ギリシャ娘のヘレン、ムーア娘のズレイカと比較して、白人が一番! という、作者様の偏見が表われているように感じられましたね。

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2024年9月14日 (土)

『イマージュ』(ジャン・ド・ベルグ 行方未知/訳 富士見ロマン文庫 No.107)の感想

 書籍『イマージュ』(ジャン・ド・ベルグ 行方未知/訳 富士見ロマン文庫 No.107)の感想を申します。ネタバレが含まれていますので、ご注意ください。

 これまた、強烈な仕様の小説です。作者様が不明ならば、翻訳者様も不明っぽいし(お名前をごらんください)、序辞をささげているポリーヌ・レアージュ自身が、『O嬢の物語』の謎作家なのですから。
 それなのに、翻訳者様は15ページもの、非常に詳細な解説を書いておられるし、佐藤和宏の描いた表紙カバー(ちょっと、人前では見せられないエロすぎ)と本文イラストは、ハンス・ベルメールと似た感じの、シュールでエロティックな魅力があります。読むのと同時に、見る楽しみもあって、私としては、なかなか得をしてしまいました。
 それで、肝心の中味は、と申しますと……。

 登場人物は、語り手たる青年ジャンと、彼が知り合った、謎めいた美女、クレール。もう一人が、ある意味、真主人公といえるかもしれない、美少女、アンヌ。あらすじは、ごく簡単で、クレールはアンヌを、囲い者かペットのようにあつかい、ジャンは時として、激しい責めと屈辱にぐったりしたアンヌを、乱暴に陵辱するのでした。
 アンヌはクレールに対して、絶対服従の態度を取り続けます。ローブをめくり上げて、ジャンの前に、下着をつけていない下半身を露出させたり、庭園のバラを無断でむしり取ったり、というのは、ほんの序の口。敏感な箇所、恥ずかしい部分への鞭打ち、淫らな写真の撮影と、クレールの命令は、どんどんエスカレートしていき、アンヌは心身ともに疲弊させられます。一方的に責め続けていたクレールでしたが、ジャンと二人きりになった時、秘められた願望を現わし、何度も告げるのでした。「あなたが好きです」「愛している」と……。



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2024年8月31日 (土)

『若きドン・ジュアンの冒険』(ギヨーム・アポリネール 須賀慣/訳 富士見ロマン文庫 No.77)の感想

 書籍『若きドン・ジュアンの冒険』(ギヨーム・アポリネール 須賀慣/訳 富士見ロマン文庫 No.77)の感想を申します。ネタバレが含まれていますので、ご注意ください。

 エロおもしろかったです!
 以前レビューした、同じ作者様の『一万一千本の鞭』に勝るとも劣らぬ、魅力がありました。
 前回は、ピカレスクものでしたが、今回は後味が悪くない分、私はある意味、気に入っております。

 あらすじを説明いたしますと、主人公は性的好奇心旺盛の少年、ロジェ。田舎のお城のような家に来てから、彼は本領を発揮します。
 小さな頃から、美しい叔母にオチンチンを洗ってもらうのが好きだったロジェは、姉のベルトの露出した下半身を確認し、互いに見せ合いっこをします。女中のカート、ユルスュール、エレーヌ達が、下男と、いやらしい冗談をたたき合っていたのも、見逃しません。
 図書室で、性の知識と自慰を覚えるなり、妊娠中の管理人の妻を相手に実践し、初体験をすませてしまいます。
 母や叔母が、聴罪司祭の前で、性の悩みを懺悔するのも、こっそり聞いています(←台詞ばかりのこの場面、私は結構エッチだと、思いました)。
 ついに、ロジェは、女中達と次々と交わり、ベルトと関係します。もう一人の姉、エリーズとも行ない、叔母のマルグリットとも、「夫婦ごっこをしようよ」。
 数週間後、エリーズとマルグリットは、妊娠したと、泣きながら、ロジェに訴えます。加えて、ユルスュールまで。ロジェは焦らず、彼女達に熱中している男性達と、それぞれ結婚するように指示します。そして、ロジェは、子供の名付け親になってあげたのでした。

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2024年8月23日 (金)

『一万一千本の鞭』(ギヨーム・アポリネール 須賀慣/訳 富士見ロマン文庫 No.76)の感想

 書籍『一万一千本の鞭』(ギヨーム・アポリネール 須賀慣/訳 富士見ロマン文庫 No.76)の感想を申します。ネタバレが含まれていますので、ご注意ください。

 おもしろくて、最後まで楽しめる内容でした。
 私にとって、間違いなく、富士見ロマン文庫の最高傑作です。

 あらすじをご紹介いたしますと、主人公は美貌のルーマニア青年、モニイ・ヴィベスク。別名プリンス・ヴィベスクといい、彼がブカレスト→パリ→オリエント超特急→旅順と、旅と逃避行を続けながら、様々な男女と関わり合い、犯し、お釜を掘られ、殺し、逃げまくります。最期は、奇しくも、モニイは、Ⅱ章の冒頭で、19歳のマドモワゼル、キュルキュリーヌを口説いた台詞そのままの運命に。
「(中略)もしわたしがあなたをベッドにお連れしたら、続けて二十回も情熱を証明して見せられるんですがねえ。もしこれが嘘だったら、一万一千の処女の罰を受け、いや、一万一千本の鞭でたたかれてもかまいませんよ!」
 そうして、モニイは全裸で、一万一千人の日本兵に鞭打たれる刑に処され……。

 読み始めた時は、ボキャブラリー豊富なエロ小説だと、私は思いました。少々、知識をひけらかしすぎで、いやみだな、とも。
 しかし、読み進むにしたがい、開いた口がふさがらなくなりました。官能描写といっても、こうも次々と、あらゆるバリエーションで休みなく続くとは!
 さらに、どんなハードでもソフトでも、エロというものは連続すると、飽きてしまうこともあるのですが、開いた口がふさがらないまま、一気に読ませてくれました。この表現力とストーリー構成は、学ぶ価値ありだと、私はうならされましたね。

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2024年8月 3日 (土)

『チャタレイ夫人の恋人 シネマ・フォト・ストーリィ』(D・H・ロレンス 富士見書房編 富士見ロマン文庫 No.61)の感想

『チャタレイ夫人の恋人 シネマ・フォト・ストーリィ』(D・H・ロレンス 富士見書房編 富士見ロマン文庫 No.61)の感想を申します。ネタバレが含まれていますので、ご注意ください。

 サブタイトルに、「シネマ・フォト・ストーリィ」とありますとおり、映画のノベライゼーションのようで、この本はカラー、白黒含めて、エロチックというか、セクシー系の写真がかなり多いです。
 それから、「富士見書房編」と記されていますが、あとがきによりますと、翻訳者様は飯島淳秀、角川文庫版のものを、富士見ロマン文庫のボリュームに合わせて編集部が圧縮し、また、飯島氏が一部新たな訳を加筆したそうです。
 あまりくわしくない私でも、この作品がセンセーショナルなものだと知っておりましたが、上記の都合で、完訳というわけではなさそうです。少し、がっかり。けれども、まあ、繰り返しますが、表と裏、両方の表紙に使われている写真も含めて、色っぽいです。

 簡単に、あらすじをご紹介いたしましょう。
 チャタレイ夫人=本名コンスタンス、愛称コニーは、夫のクリフォードが戦争のために下半身不随で戻ってきてから、満たされたない日々を送ります。貴族階級ゆえに金銭的には不自由はないものの、煤煙にけむる街を見ながら、コニーは小説を書き続ける夫に放置され、身も心も衰えていくのでした。
 そのような日々を送るうちに、コニーは猟場番のメラーズが体を清めているのを偶然に見かけ、心を乱されます。興味を持って、メラーズに接近しますが、彼は性悪な妻との関わりで疲れていたのと、身分違いのために、ひどく警戒します。けれども、一途で熱心なコニーの言動に心動かされ、抱擁し、二人は密会を繰り返すようになり、やがて、コニーは妊娠したことを悟ります。コニーは喜び、メラーズと愛ある生活を送るため、夫のクリフォードに離婚を要求します……。

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2024年7月21日 (日)

『エマニュエル』(フランシス・ルロワ アイリス・ルタン 河村季里/訳 富士見ロマン文庫 No.92)の感想

 書籍『エマニュエル』(フランシス・ルロワ アイリス・ルタン 河村季里/訳 富士見ロマン文庫 No.92)の感想を申します。ネタバレが含まれていますので、ご注意ください。

 この本の原題は『EMMANUELLE Ⅳ』で、巻頭にカラー写真も掲載されていますから、恐らく、映画のノベライゼーションだと、思われます。それは、いいのです、中身がおもしろい、もしくはエロければ!
 けれども、この本、富士見ロマン文庫なのに? 巻末に解説文も、作者様や翻訳者様の紹介さえ載せていません。原稿が締め切り間際だったので、大急ぎで製本したのではないかと、私はおかしな想像をしてしまいました。

 あらすじを紹介しますと、35歳のシルビアは、パリからブラジルにやって来ました。マルクという男性の強い愛情から逃れ、第二の人生を始めるためです。シルビアは全身を整形し、二十代の美女、エマニュエルとして生まれ変わります。
 エマニュエルは、カウンセラーのドナのアドバイスを受けながらも、ブラジルの熱狂的な性愛を楽しみます。男性のみならず、ドナや友人のマリア、そのまた友人のスザンナ。マルクにまで、赤の他人のふりをして誘惑します。さらには、ナの恋人のロドリゴ、マリアの婚約者のアルフレッド、その父親ネルソン、兄のミゲルまでも肉体関係に及び、常識や節操を忘れたのではないかと、思われるほど。
 しかし、現地の粗暴な男にレイプされ、暴力と激痛の恐怖にあったためか、エマニュエルの心に大きな変化が訪れます。事件そのものに対するトラウマでなく、心の空白を埋めるためには何が必要なのかを察知し、彼女は旅立ちます。

 

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2024年5月11日 (土)

『作家マゾッホ 愛の日々』(フィリップ・ペラン 黒主 南/訳 富士見ロマン文庫 No.71)の感想

 書籍『作家マゾッホ 愛の日々』(フィリップ・ペラン 黒主 南/訳 富士見ロマン文庫 No.71)の感想を申します。ネタバレが含まれていますので、ご注意ください。
 この本は、翻訳者様のあとがきによれば、「フランコ・ブロジ・タビアーニの同名の映画に想を得たフィリップ・ペランが1982年に小説化したものである。主人公レオポルド・フォン・ザッヒェル・マゾッホは、昨今大流行のキンキー・セックス(異常性愛)の本家本元として名高い」だそうです。
 これでほぼ、あらすじを説明したかと思いますが、私は映画の方は見ておりませんけれども、マゾッホの生涯の重大な情景と、いわゆるマゾヒズムの心理をくわしく描いていて、おもしろく読めました。表紙も過激ですし(裏表紙なんて、今では印刷できないのでは? 後ろ姿とはいえ、男性の……ですから)、巻頭8ページの映画中のシーンを集めたフルカラー、123~150ページまで、白黒ながら、やはり映画のシーンと登場人物達の台詞が描かれていて、なかなか刺激的でお得な仕様です。
 もう少し、くわしくあらすじをご紹介しましょう。幼い頃、乳母ハンドシャの女王のような風貌にあこがれ、十歳で叔母から鞭打たれたことによって、マゾッホは、自分の秘められた性癖に目覚めてしまいます。早熟で明晰な頭脳を持つ彼は、その小説の人気と相まって、多くの女性達と関係を持ちますが、いずれも一長一短、女王の威厳の持ち主は現れません。
 ところが、ワンダことアウローラ・ルメリンという女性からの手紙は、マゾッホを熱狂させます。アウローラは上流階級出身のふりをしていますが、本当は貧民街のお針子。上流階級に入り込むため。『毛皮を着たヴィーナス』に扮して、近づいてきたのでした。
 マゾッホとアウローラは、契約書を交わし、鞭打ちに夢中になる関係になるのですが、やがて、アウローラは身分をいつわることに耐えられなくなり、本当の素性を明かします。彼女の虐待センスに心惹かれて、マゾッホは家族や友人の反対を押し切って、彼女と結婚しました。
 次に、マゾッホは、いわゆる自分が寝取られ男になることを夢想し、アウローラに要求しますけれども、うまくはいきません。アウローラは文芸誌のオーナーのアルマンと、マゾッホはフルダ・マイスターと、ダブル不倫の関係におちいってしまいます。結婚十年で、マゾッホはアウローラと離婚し、二人の関係は終わりました。
 しかし、後に、アウローラは、マゾッホの死亡記事に対して、自分こそが彼の正妻であると抗議し、一人きりになっているのに、なおも『毛皮を着たヴィーナス』へ、心は成りきっているのでした。

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2024年1月13日 (土)

『ガミアニ伯夫人』(アルフレッド・ド・ミュッセ 須賀慣/訳 富士見ロマン文庫 No.11)の感想

 書籍『ガミアニ伯夫人』(アルフレッド・ド・ミュッセ 須賀慣/訳 富士見ロマン文庫 No.11)の感想を申します。ネタバレが含まれていますので、ご注意ください。

 何と、この本は巻末の翻訳者様(恐らく)の解説によりますと、フランスのロマン派詩人、ミュッセの描いた好色文学、もとい、官能小説の古典です。さぞや、表現も慣習も現実離れ&現代離れ(?)していて、読みにくいだろうなと、私は危ぶんでおりましたが、とんでもない間違いでした。
 ミュッセと翻訳者様に、精神的土下座をさせていただきます。
 実は、前回レビューした、ヘンリー・ミラーの『オプス・ピストルム』よりもエロくて、さらにおもしろくて、楽しませてもらいました。
 ただ、いただけない点がありまして、この本、実は2部構成なのです。前半は、『ガミアニ伯夫人』なのですが、後半は、『美女ジュリアの手記』(アンドレア・ド・ネルシア)となっており、まったくの別作品です。いいえ、別にいいのですが、表紙には、後者のタイトルさえも載っていないのに、中表紙にようやく、『ガミアニ伯夫人 他一篇』と、印刷されています。
 加えて、巻末の富士見ロマン文庫シリーズ紹介では、最後のページはタイトルしかないし……。
 さらに、『ガミアニ伯夫人』には、むっちりぽっちゃりの、古典的美女満載の刺激的な挿絵がいくつか載っていて、視覚的にもかなり楽しませてくれるにも関わらず、画家かイラストレーター様の名前、出典など不明なまま、私が惜しがっておりますと、これもまた解説に、20世紀初頭にパリで出版された、ブリュッセル版の復刻版で、ドヴェリアという画家様のものだそうです。
 内容はいいのですが、不親切仕様ですなあ。

 それでは、まず、『美女ジュリアの手記』(アンドレア・ド・ネルシア)の感想を申しましょう。修道院で女性同士の関係を知ったジュリアは、その美貌ゆえ、男性が放っておきません。修道院と小父夫婦から逃れ、様々な男性と経験を重ね、ついには、理想の男性器を持つ、すばらしい男性と結ばれるのでした。
 巻末の解説ではほめられていますが、私はちっともおもしろくありませんでした。女の子の好きなおとぎ話に、官能要素をプラスしただけだからです。

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